パラリンピックの開幕に合わせて、航空自衛隊のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」がパフォーマンスを披露しました。私はそれを、自宅の最寄駅前の広場でタイミングよく見ることができました。
広場は家族連れで賑わっていました。「見えた!見えた!」と興奮した様子で空を見上げる大人たち。一方の子どもたちは、「こっち!こっち!」と同じように空を見上げながら走り回るも、目で追う先は大人たちとは違う様子。子どもたちが追いかけていたのは「青い衝撃」ではなく「赤いとんぼ」、赤とんぼが飛んでいたのです。「ほら、見えるよ。ブルーインパルス!」と保護者の方が声をかけても、子どもたちの目に映っているのは赤とんぼだけのようで、見向きもしません。
多くの大人たちがブルーインパルスに惹かれる理由の一つは、その特別感でしょう。特別なときにしか見られないものに対して、価値を置いているのです。また子どもたちも、それと同じような価値を、赤とんぼに置いていました。「特別なもの」という共通点はあるのですが、その対象はまるっきり違うようです。「普段は見ることができないから」という大人の想いは、目先の楽しさを優先する子どもたちには届きませんでした。こういった価値観の違いは、子どもたちと接するうえで意識すべき大切なことの一つだと考えています。
算数の文章題を見ると手が止まってしまう小学1年生のAくん。「一緒にやろう」と声をかけると、文章を問題なく読み始めるのですが、必要な数字に線を引いたり、最後に聞かれていることは何かを一緒に確認したりすると、首を傾げ、不安な表情を浮かべる日々が続いていました。
ほかの教材には楽しそうに取り組んでいたため、算数の文章題に対して、心の壁があるのかもしれないと思いました。そこで、Aくんが楽しいと思えるようなアプローチを考えることにしたのです。そんなある日、AくんのTシャツに、恐竜が描かれていることに気がつきました。また、カバンには同じく恐竜のストラップが。そこでハッとした私は、「リンゴ」が出てくる文章題を図にして考えるときに、「恐竜の卵」に置き換えて説明しました。するとAくんは笑顔を見せ、楽しそうに卵を描いて考え始めたのです。
大切なことは、子どもたちがいかに「楽しそう」と思えるかどうかだと学びました。私たち大人は、しばしば「教える」ことを優先してしまいます。それは、知識を習得させることに重きを置いているからでしょう。しかし子どもたちは、極論、その瞬間が楽しいか楽しくないかという世界で生きていますから、楽しめなさそうだと感じた時点で、取り組む意欲は下がってしまいます。何か習得させたいことがあるならば、その入口でいかに惹きつけられるかが鍵となるのです。
楽しいかどうか、を本能的に子どもたちは察知するため、大人がアプローチの仕方を工夫していく必要があります。冒頭の話で、大人が子どもたちにブルーインパルスを見てほしいと思っている場面がありました。この場面でも、大事なことは、まずは、赤とんぼを一緒に楽しむこと。それができて初めて、子どもたちの目は、見上げた空を漂う赤とんぼの向こうのブルーインパルスに向かうのです。
教室で子どもたちと接する際には、まずは目の前の子どもが何を楽しいと思うのか、を見極め、それぞれの子に寄り添えるアプローチを模索してまいります。
花まる学習会 土方日向(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。