先日、漫画の『クッキングパパ』を久しぶりに読んでいました。そのなかで、クッキングパパ(荒岩さん)のお母さんの過去回想でこんな話がありました。なかなか靴が履けず、もたもたする荒岩さんの妹。それを見てお母さんが「ああ、もう仕事遅れちゃうよ」と言いながら手伝おうとします。すると荒岩さんが「妹は自分でできるんだよ!」とかばいました。結果、お母さんは仕事に遅刻してしまいますが、妹は自分で靴を履くことができました。嬉しそうに履けた靴を見せてくる妹に、お母さんも「まあ、いいか」と思わず笑顔になっていました。
私も教室でついつい同じようなことをしてしまうときがあります。子どもたちが自分でできるとわかっていても、口や手を出そうとして子どもたちにいやがられます。先日も似たようなことがありました。
Iキューブが大好きなAくん。片づけの時間になってもなかなか手が止まりません。ほかの子が片づけを終えた頃、ようやく箱にしまい始めました。けれども、Aくんはなかなかうまくしまえません。そこで私が「よし、一緒に片づけしよう」と声をかけ、手早く箱にしまいました。さあ次の教材へ!と思いAくんに背中を向けた途端、ガラガラ!という音が。見ると、Aくんが箱をひっくり返していました。それを見た瞬間、「どうしても自分でやりたかったんだ」ということに気がつきました。そこで「自分でやりたかったんだね。箱にしまい終えたら先生に教えてね!」と伝えると、Aくんはにっこり。無事にIキューブを箱にしまい、すっきりした顔で次の教材に取り組み始めました。
Aくんとのやり取りがあってから1週間後、特別授業の作文大会を開催しました。今年は始める前に、作文大会の3つの心得を伝えました。
・ゆっくりでもだいじょうぶ
・せいかいはありません
・じぶんのきもちをすなおにかこう
普段であれば、10分ほどで書きあげる作文。この日は時間を気にせず、自分の心のなかにある気持ちを素直に出していこう。わからなかったら一緒に考えよう。
このようなことを話してから始めました。すぐに書き始める子、ちょっと考える子、先生と話す子。それぞれが自分のペースで作文と向き合っていました。そんななか、ぽやっとした表情を浮かべている1年生のBちゃんが目に留まりました。普段の授業では、講師と話しながら作文を書いている子です。「大丈夫かな…」声をかけたい気持ちを抑え、ぐっと我慢して見守りました。始まってから5分後、ようやく手が動き始めたBちゃん。しかしまたすぐにえんぴつを置き、空中を見つめ始めました。待つことにした私は、困ってこちらを見てきたら声をかけることに決めました。それから30分ほど経ったでしょうか。Bちゃんがニコニコしながら私のところまで来て、「かけたよ!」と作文を渡してきました。運動会について書いた、3行ほどの作文。大人から見れば拙い文章。けれどもそのなかに、「うんどうかいがたのしかったんだ!」という気持ちが詰まっていました。そして顔は、自分の力で書き上げた喜びで溢れていました。「2枚目を書く?」と聞くと、「かく!」と即答。新しい用紙を受け取ると、いそいそと書き始めました。最終的に90分で3枚の作文を書ききったBちゃん。翌週はこちらが声をかけなくとも、自分の力で書き進めていました。
気がつかないうちに子どもが成長していることは日常茶飯事です。その成長を子どもたち自身に感じてほしい。自分の力でできた!という達成感を味わってほしい。そのためにも、子どもたちを信じて待ちたいと思います。待ち、見守り、そしてできたときに一緒に喜ぶ。こんな想いを、最近は少し忘れがちになっていたかもしれません。AくんとBちゃんに、「大切なんだよ」と改めて教えてもらいました。
花まる学習会 清岡悠河(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。