【花まるコラム】『髪を引きずる素敵さ』水野青空

【花まるコラム】『髪を引きずる素敵さ』水野青空

 私が絶対に手放さない漫画の一つに『よつばと!』があります。主人公は5歳の女の子、よつば。さまざまな人と出会い、さまざまなことを知りながら、少しずつ成長していく姿を丁寧に描いている漫画です。
 そのなかに、お姫さまに憧れて髪を伸ばすシーンがあります。どうやって伸ばすかといえば、自分の頭に長ーい紐を括りつけるだけ。紐は、カツラのように束になっていなくていい。たった1本でいい。長ければ長いほど、女心はときめくのです。
 地面につくほど長い紐(髪)を見て、よつばは「すてき」と言いますが、それを見たお父さんは、「地面にひきずってるけど いいの?」と尋ねます。よつばの返答はこちら。
「とーちゃんは かみをひきずるすてきさが わかってない」 

 さて。どうしてこんなことを思い出したのかといえば、いるのです。教室にはリアル「よつば」ちゃんがいるのです。年中クラスで、毛糸を使った遊びをしていたときのことです。
「先生、これ、みつあみしたいの」
と長い1本の毛糸を持って言ったNちゃん。乙女の私はもちろんピンときます。講師の男性はうなずくのみ。
「毛糸をもっとたくさん使ってみようか」
と提案してから、毛糸を何本も束にして見せました。キラッと輝く瞳で
「うん!」
と大きくうなずくNちゃん。一緒に束を3つに分けて、長い毛糸を丁寧に三つ編みしていきます。
 一つ結びをしていたNちゃんの髪ゴムのところに、長い毛糸の三つ編みをくっつけました。肩口から前に回した三つ編みを優しくなでるNちゃん。それから毛糸で飾りつけをして、三つ編みで地面を引きずりながら帰るNちゃんは、お姫さまでした。
 キラキラした目で三つ編みを見つめるNちゃんの横では、男の子たちが毛糸でお化けになっていたり、投げて戦っていたり。
「むすぶのてつだって」
とGくんは利き手の手首を見せてきました。カラフルな毛糸を手首に巻いて、最後に結ぶ。少しだけ糸は垂らしたままにしてほしい。要望通りにお手伝いをすると、目を輝かせて手首の紐を見るGくん。
「えい!」
と言いながら架空の敵に向かってパンチを繰り出します。ヒーローになりきった、まさに男の子だなあと思っていると、
「それ、かっこいいね!」
キラキラした目でGくんに話しかけるUくん。それを見て、手首の紐のかっこよさを、私は本当の意味ではわかってあげられていないのかもしれない、と思いました。

 幼き頃の私は、それはもうおてんば娘でした。スカートを履けばめくれることを気にせず走り回り、髪を伸ばしてもドライヤーで乾かす間じっとしていられなかったのです。しかし、心は乙女。よつばが紐で髪を伸ばしたシーンを見たときには、バスタオルを長い髪に見立てた自分を思い出しました。
  小学1年生の頃には、かわいい指人形をコレクションしていました。大事に大事にしていたことを、小さいころから仲良しだったお友達のOくんには伝えていたはずです。ある日、Oくんと、もう1人お友達をわが家に招いたときのことです。先に部屋に入ってもらっていたら、何やら楽しそうな笑い声がしました。何をしているのかな、はやく遊びたいな、なんて思いながら、ガラッと戸を開けると…。ズボンをおろして、お尻をこちらに向けたOくんがいました。くるっと振り向いてにやりと笑った彼の顔と一緒に、お尻の間にある指人形が目に入った私。大泣きする私と、あきれ顔でやってくる母、悪びれないOくん、まだ笑いが止まらないお友達 …。『男の子ってわからない』と初めて思った出来事でした。

 十人十色。人それぞれの違いもありますし、男女の違いもあります。それは優劣ではなく、生まれもった個性です。手首の毛糸のかっこよさや、お尻に挟んだ人形のおもしろさはわからなくても、彼らの素敵なところをたくさん知っています。わかり合えない部分があっても、わかり合えなさまでもをひっくるめて、花まるの教室はその子自身を受け止める場所であり続けようと、今年のお姫さまとヒーローを見て改めて思いました。

 

花まる学習会  水野青空(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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