年中クラスの思考実験で、色水作りを行いました(思考実験とは、ものそのものに触れ、手をたくさん動かしながら考える体験の時間です)。色水作りでは、水が入ったペットボトル容器の淵に、自分で選んだ色の絵の具を少しだけつけます。その容器を振ると、絵の具が水に溶けだし色がつきます。子どもたちは赤・青・黄・白の4色のなかから好きな色を一つ選んでは振り、また新たな色を加えては振り、を何度も繰り返しました。色を足すたびに、色が変わっていきます。子どもたちは、マジックのように変化を遂げる色水を、興味津々な眼差しで見つめて大興奮。「見てみて!バナナジュースになった!」「ぼくのはぶどうジュース!」と子どもたちの想像も広がります。「次は何色に変わるんだろう!」とわくわくした様子で子どもたちは色を重ねていきました。2色、3色を混ぜたときは鮮やかな色をしていた色水も、続けていくと少しずつ濁った色に変わっていきます。一言では言い表しがたいその色は、たくさん実験を重ねた証。どんな色になっても失敗なんてことはありません。夢中になって色の変化を楽しんだからこそできた、世界にたったひとつの色です。
それぞれが自分だけの色をうれしそうに眺めて楽しんでいるなか、Aくんは「変な色になっちゃった…」と少し悲しそうな表情を浮かべていました。Aくんが心動かされるままに色を足してできたとっておきの色水。Aくんにどんな言葉をかけたら、その色の尊さを伝えることができるだろうかと考えていたとき、隣にいたBちゃんが、Aくんの色水を見て「ココアみたい!」 と言いました。Aくんのそばにいた講師もその言葉を受けて「本当だ!おいしそうな色だね。」と声を掛けました。するとAくんはにっこり。それからは大事そうに自分だけの色水を眺めていました。Bちゃんの一言がきっかけで、濁った色をした色水が特別な色水へと変わったのでした。
年中の思考実験のテーマは「創造力を育む」。五感を存分に使い、心を動かす実体験を積み重ねていきます。正解・不正解はありません。試行錯誤した過程も、無我夢中で作り上げた作品も、ありのままを肯定できる時間。子どもたちが自分の心と向き合い、周囲の言動に刺激を受けながら、感性を研ぎ澄ませていく時間です。必要な知識や情報は調べれば簡単に手に入れることのできる世の中だからこそ、子どもたちには自由な空間で「自分はどう感じたのか」を大切にしてほしいと思います。
話は変わりますが、先日、小学生クラスでは今年度初めてのHIT(花まる脳力テスト)・花まる漢字テストがありました。先ほどお伝えした年中クラスの思考実験とは異なり、テストには正解・不正解があります。採点をしていると、点数として数値化することは時に残酷だと感じます。不正解となり、点数には結びつかなかったとしても、答案用紙には彼らの考えた跡があります。消しては書いてを繰り返し、黒くなった答案用紙。手がかりをつかもうと問題文を何度も読んで、キーワードに引かれた線。また、答案用紙には何も書かれていなくても、時間いっぱい問題と向き合い考えた時間は、確かに存在します。テストという響きに少し緊張した面持ちで、どの子も一生懸命に取り組んでいました。彼らの頑張りは正解・不正解の枠には収まりきりません。
点数をつけるとその数字にどうしても目が行ってしまいます。きっと子どもたちも書かれた点数を見て、一喜一憂するでしょう。だからこそ、私たち大人の役割は「できていること」や「考えた跡・時間」に目を向けること。そして、「たくさん考えてよく頑張ったね」「諦めずに挑戦したことがとてもかっこいいよ」と頑張った過程を認めることだと思っています。
「不正解」はこれからの「伸びしろ」です。今後できるようになっていく無限の可能性を秘めています。「必ずできる」と信じて、焦らず、ぐんとあと伸びするようにサポートしてまいります。そして、正解・不正解の枠には反映しきれない彼らの思考や気持ちに、常に思いを馳せて寄り添える人でありたいと思います。
花まる学習会 米田晴香(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。