【花まるコラム】『子どものヒット≠親のヒット』新井征太郎

【花まるコラム】『子どものヒット≠親のヒット』新井征太郎

 最近の休日には、1歳6か月を迎えた娘と妻と、よく近所のショッピングモールへ出かけています。そこには、子どもたちが遊べる場が設置されていて、私と娘がそこで遊んでいる間、妻が買い物に行くということもあります。
 そこで遊ぶ娘の姿、私の声かけに対する娘の姿を見て、私がよく講演会でお話しする「子どものヒットは、親のヒットと一致しない」ということを、身をもって実感しました。ここで言うヒットとは、熱中するもの、熱中させたいもの、熱中するであろうと予想したものという意味です。

 私自身が講演会でお話しすることですから、そのような遊び場では、娘が遊びたいもの、興味を示すものに合わせて、私が動いています。娘は「おーっ!」「だだだーっ!」など声を出しながら、そのとき遊びたいものに向かってとことこ歩いていくので、私は後を追いかけます。そして、娘が立ち止まり、遊び始めたおもちゃで私も一緒に遊ぶと、娘も喜んで遊びます。しばらく遊ぶと、また歩き出して、次のおもちゃや遊具へ。そんなことを繰り返していると、娘が自宅で遊んでいるものと似たようなおもちゃが、ふと私の目に留まります。これは娘が楽しむだろうと思い、「これで遊ばない?」と私がおもちゃを持って、遊びながら声をかけると、決まって興味を示しません。別のおもちゃや遊具に向かって、歩き出してしまいます。ここで痛感します。「この年齢から、子どものヒットと親のヒットは一致しないんだな…」と。自宅で楽しそうに遊んでいるからといって、「いま、この場で」遊びたいかというと、必ずしもそうではないということですよね。「お父さんの思う通りにはいかないよ」と、娘の背中が語っています。反省とともに、この頃からそのように自分の意思を持ってほしいものだと考えます。たかが一歳のおもちゃ一つでも、親に言われた通りのことをする(それしかできない)のではなく、やることを自分で考えて行動し、自分の道を切り開いてほしいと思い、娘の背中を追いかけるのでした。

 では、親は何をして、子どもの意思と選択を支え、見守っていくのでしょうか。小学生のお子さまが群馬県に山村留学したご両親は、「親が選択肢を見せること」だとお話しされていました。子どもに、自分の意思で人生を切り開いてほしいと思っても、普段の子どもの行動範囲では、見られる世界は限られている。だから、メディアでも、旅行でも、近場の博物館でも何でもいいので、「こういう世界もあるよ」と、親が子どもに見せてあげる。子どもが興味を示すときもそうでないときもあるけれど、それはそれとして、受け止める。私たちは、花まるを通じて山村留学を知り、息子に見せたら興味を抱き、山村の生活に魅せられ、いまは留学3年目を迎えていると話してくださいました。さらに、お母さまは「主人は、自分で自分の道を決めてきた人です。一方、私は子どもの頃から、就職先まですべて父に決められてきました。主人はそう育ってきて、自分に自信があります。そのぶれない自信は、自分を幸せにするものだと、結婚して実感しました。息子には、自分の道を自分で決めてほしいです。親はサポートするけれど、子ども自身で道を決めて生きたら、どんな道でも後悔はないんじゃないかと思っています」とお話しされていました。

 娘を遊び場に連れていき、さまざまなおもちゃや遊具があり、娘自身が選んで遊んでいく…ということ。これは親が選択肢を見せて、子ども自身が道を選んで決めていく原点だと考えながら、私にヒットしたおもちゃを勧める手を止めました。これから、娘にどのような選択肢を見せていこうかと、楽しみです。

花まる学習会 新井征太郎(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

花まるコラムカテゴリの最新記事