【花まるコラム】『書き続けて一年半』富永真子

【花まるコラム】『書き続けて一年半』富永真子

 花まる小学生クラスの11月といえば、「作文コンテスト」。一回の授業を作文だけに使い、約一時間子どもたちは書くことに向き合います。授業当日、「コンテスト」という冠と、花まるの作文集に載るかもしれないという期待感から、緊張しながらも気合十分な表情で子どもたちはオンライン授業に入室してきました。
 授業が終わり、改めて作文に目を通してまず思ったことは、シンプルな言葉ですが「すごい!」でした。一人ひとりがいままで書いてきた作文を知っているからこそ、「いつもと違うテーマで書いてみたのだな」、「文章の書き方を変えて挑戦している」、「この一文を工夫したのだな」ということが伝わってきました。今回はそのなかでも特に成長を感じた、3年生Aくんについて書きたいと思います。

 彼は花まるに入会してから約一年半、毎週作文を書き続けてきました。オンラインクラスでは宿題で作文を書き、授業内で発表します。けれど、去年の4月時点でのAくんにとって、宿題として作文に取り組んでくるのはハードルが高く、まずは授業前に早く入室してもらい一緒に書くところからスタートしました。「今週は学校でどんなことがあった?」、「好きな食べ物は何?」などと質問しながら作文の題材を一緒に探しますが、なかなかAくんが「これについて書こうかな」と思うものが見つかりません。題材が決まったあとも、「僕は○○が好きです」のような一文でさえなかなか書き出せず、3~4行の作文を書くのに20分かかることもありました。Aくん自身もどうすればいいのかわからず困っているようだったので、Aくんが話したことを私が繰り返して言い、それを書き起こすという方法で春は作文を書いていました。

 それから数か月、少しずつ「今日はこれについて書く」と自分で決められるようになっていったAくん。ですが、どう文章にしたらいいかはまだ悩むようで、「Aくんはそのとき、誰と一緒にいたの?」と私が質問をしてAくんが書く、ということは続いていました。そしてあるとき「私の言葉がAくんの邪魔になっていないか」と感じるできごとがありました。
 自分から「○○について書く!」と元気よく宣言したにもかかわらず、私がそのことについて質問すると、言いよどんだり「わからない」と首を傾げたりするのです。Aくんが自分で見つけた題材なので、会話もポンポン進むと思っていた私も「おや?」と悩みました。私が投げかけている質問とAくんが書こうとしたことがずれているのかも…という考えに至り、Aくんにある提案をしてみました。
「今日は一人で書いてみる? 書きたいことは決まっているし、好きに書いてみてごらん。先生から声はかけないけれど、Aが書いているのは見ているから。悩むことがあったら聞いていいからね」
するとAくんは頷き、鉛筆を動かし始めました。コツコツ…と画面から聞こえる鉛筆の音。それが時々止まり、目線を上のほうに動かして次に何を書こうか考えているAくん。そしてまた、鉛筆の音。時々、横にいるお母さまに「あのときに使った○○ってなんて言うの?」などと質問もしていました。私が何も言わない静かな時間が過ぎたあと、Aくんは初めて自分だけで花まるの作文を書き上げました。

 それからもしばらく、Aくんとの静かな作文タイムは続きました。作文の題材が見つからず一緒に考える日もありましたが、以前のように私がAくんの話を繰り返して言ったり、たくさんの質問をしたりすることはありませんでした。そしてとうとう2年生の冬、「そろそろAに、一人で作文を書いてもらおうと思います」とお母さまから話がありました。「ね、A。頑張れそうだよね」とお母さまに声をかけられると、ニコニコ笑顔で頷くAくん。それ以来、Aくんとの作文タイムはありませんが、毎週書く作文は読んできました。少しずつ文章が長くなり、漢字を使うようになり、かぎかっこや擬音語も出てくるようになりました。

 そして今年の作文コンテスト当日。Aくんは一年前と同じように、鉛筆を動かし、目線を上げ、また鉛筆を動かし、と作文を書いていました。書きあがった作文は、ディズニーランドの思い出を題材にした、作文用紙一枚半の大作でした。遊園地のように楽しいイベントがたくさんあるものを題材にすると、「○〇をした」という事実だけの羅列になりやすいのですが、Aくんの作文は違いました。入場したときのワクワク感が伝わる一文やアトラクション一つひとつへの感想が盛り込まれていて、Aくんと一緒にディズニーランドを回ったような気持ちになりました。そのなかでも特にAくんの成長を感じた部分を紹介します。
「(車に)乗ったらすごい急で、シートベルトがとれるくらい急でした。すごすぎて声が出なかったです。」
何気ない一文ですが、一年半毎週作文に向き合ってきたAくんだからこそ書けた文であり、成長の証です。まさに継続は力なり。この言葉の重みを実感した瞬間でした。

花まる学習会 富永真子(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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