日々の生活をぐるりと見渡すと、たくさんのモノにあふれています。スマホを開けば欲しい情報がすぐに手に入り、喉が渇いて冷蔵庫を開ければ飲み物が飲める。たくさんのモノに囲まれて生活をしていると、あたかも「ある」ことが当たり前になり、気がつくと思考は常に「ないもの」を求めて生活しているような気がします。
2021年から始動した花まる学習会の無人島「花まる子ども冒険島」には、当たり前ですが、電気・水道・ガスはなく、普段は「ある」ものがそこにはまったく「ない」のです。そんなところに身を置くとどうなるのか。今年のサマースクールでは、子どもたちと無人島で語り合うなかで、私自身たくさんの学びを得ました。
花まる子ども冒険島を訪れる人には、事前に【無人島の5つの掟】というものを伝えています。そのなかのひとつに以下のような項目があります。
1.「ない」ではなく、「ある」を見るべし
普段の生活にあるものが無人島にはない。でも、あなたがそこにいる限り、「考える力」だけはなくならない。不便と感じたら、それはチャンス。島に「ある」ものを駆使し、知恵を絞って生き延びよう。
というものです。3泊4日、「ない」ではなく、「ある」を見続けて活動した子どもたち。無人島で過ごす最後の夜におこなった焚火を囲んでの語り合いでは、子どもたちが発する言葉にたくさんの「ある」があふれていて、何も「ない」はずの無人島がとってもあたたかな空間になりました。ここで、実際に子どもたちが語った内容の一部をご紹介します。
「Aくんは、みんなのことをよく見ていて、困っている人がいたらすぐに駆けつけて助けていて、かゆいところに手が届くような人だった」
「みんなすごく優しくて、たくさん協力していろいろなことができた。虫が苦手だったけれど、『大丈夫だよ』と声をかけてくれて救われた」
「Bくんは、新しい班でドキドキしていたときに、はじめて声をかけてくれた人だった。いつも『ナイス!』と明るい声をかけてくれて嬉しかった」
「みんなが本当に明るいから、この語り合いでも明るく、気を遣わずに話せるんだなって思った」
「Cさんは、おもしろさのかたまりの人! まわりの雰囲気をいつも明るくしてくれた!」
「やるときはやる男! 水運びのときの声かけが上手で、チームワークが高まった!」
「ほかの人が頑張っているところをたくさん見つけて、それを伝えてくれて嬉しかった!」
普段は「ある」ものが、そこにはまったく「ない」無人島なのですが、それよりも、もっともっと身近に「ある」ものが浮き彫りになりました。それは、互いに支え合った‟仲間”の存在。助け、助けられ、こうしていまの世の中も成り立っている。誰かの支えがあっていまがあるんだよな、と子どもたちの言葉に耳を傾けながら、じんわりと私の身体に染みわたりました。
ないものねだりではなく、あるものねだり。
普段の生活では当たり前だと思って通り過ぎてしまうものにも、いま一度目を向けて想いを馳せる。すると、また違った見え方で物事をとらえることができるようになるのかもしれません。「ないもの」ばかりを追い求めるのではなく、いま「ある」ものを味わう、あるものねだり。
私も子どもたちと教室で接するなかで、「ないもの」ばかりに目を向けるのではなく、その子のもつ「ある」に目を向け、言葉をかけていきたいと思います。
花まる学習会 加藤崇彰(2023年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。