【花まるコラム】『Why am I so special?』山岸亮太

【花まるコラム】『Why am I so special?』山岸亮太

 年に一度、年末の授業にしかない“特別”なこと。それはタケノコシート・FBシートのプレゼントです。年長・低学年コースではタケノコシートを、高学年コースではFBシートというかたちで、一年間の記録を言葉にして渡しています。

 渡した瞬間の子どもたちの反応はさまざまでした。3年生のDくんにタケノコシートを渡すとき、彼の反応に私は大事なことに気づかされました。
 Dくんに渡すとき、「Dの素敵なところいっぱい書いたんだけれど、どんなことを書いたと思う?」と問いかけてみました。「うーん…」と悩むDくん。私にはその姿が意外でした。Dくんは非常に活発で、1年生想い。教室の雰囲気を明るくするムードメーカーの一人です。どちらかといえば魅力がわかりやすいタイプの子でした。そんなDくんは答えに悩み、固まってしまいました。最初に出てきた言葉は「…ないよ…」という力のない答え。この言葉は珍しくはなく、同じ問いかけをされた子の多くが「ない」「わからない」と答えていました。日本人気質と言いますか、謙遜を美徳とする感覚が子どもながらにあるのかもしれません。しかし、この日は年内最後の授業。タケノコシートを渡す日。自信をもって「いや、絶対にある!先生は知っているよ。だってここにいっぱい書いてあるし!」と言える日です。
 そう伝えると、子どもたちからは悩みながらも言葉が出てくるようになりました。「足が速いところ?」「漢字のテストが良かったところ?」など少し照れ臭そうに口にします。Dくんも何とかひねり出し、言いました。それを聞いて「もっとたくさんあるよ!先生たちがここに書いたからね!」とタケノコシートを渡すと、Dくんから「え、こんなことでいいの!?」と驚きの声があがったのです。

 その瞬間に思い出したのは、あるアメリカ駐在のお母さまから聞いた話でした。小学校で「Why am I so special?」というテーマのレポート課題が出たそうです。直訳すると「なぜ私は特別なのか?」ということ。親子で必死にその子の特技を出し合って、何とか課題は提出できたそうです。どうでしょう。みなさんのご家庭では、どんなことをレポートを書くでしょうか。
 そのお母さまが同じクラスの友達のレポートを見ると「笑顔が素敵なところ」「いつもパパとママと幸せに暮らしているところ」「元気なところ」そんな一見当たり前に思えるようなことばかりが並んでいて驚いたそうです。

 「私が特別な理由」とは、そんなに“すごい”ことでなくていいのでしょう。誰かと比べて勝っていなくてもいいし、特技でなくてもいい。拍手を送られるものでなくてもいい。落とし穴は「特別」を「誰かと比べて」と考えてしまうこと。
 「特別な理由」をあえて言葉にするなら「愛情を向けてくれる人がいるから」でしょう。「上手だ」とか「勝っている」とか、そうした理由がなくても向けられるプラスの感情が「愛情」です。他人と比べて「勝っている」と感じる「優越感」から作られる肯定感は脆い。自分よりも勝っている人間に出会ったときにポキッと折れてしまうでしょう。「愛情」を日々感じることで、人間として強い幹へとなれるのです。

 タケノコシートを見て「こんなことでもいいの?」と驚いたDくんも、きっと「自分の素敵なところ」を聞かれて、自分の優れているところを考えたのでしょう。私も最初は同じでした。どこかその子の「すごい」ところを見つけようと必死になっていたのです。もちろん成長したところを伝えることは大事。けれど、それと同じくらい、この一年笑顔で教室に来て、必死に学んで、いい顔で帰っていく子どもたちに、その当たり前の姿がどれだけ素敵で、その姿を愛おしいと思う人がいるということを伝えてあげたいと感じた瞬間でした。

 Dくんの「こんなことでいいの!?」という言葉は、裏を返せばまだ彼は元気なところや優しいところを自分の魅力だと自覚しきっていない証。「あなたは魅力的だ!」その言葉を真正面からかけ続けることが、社会の荒波のなかでも折れない心を育てていくのだと信じています。一年に一度、なんて贅沢なものにせず、毎週のように子どもたちにありったけの愛情を注いでまいります。

花まる学習会 山岸亮太(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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