【花まるコラム】『ちょっとした逆境』椿原葵

【花まるコラム】『ちょっとした逆境』椿原葵

 先日の出来事です。3年生のKちゃんが、「レインボータイム(思考力の発展問題)」 の丸付けをしてほしい、と私のところへやってきました。「よし、見せてみて。えーっと、これは正解」と丸付けしていく私の手元を、Kちゃんはじっと見つめています。「これも正解。最後のこれは…正解!ばっちり!」そう言ってKちゃんにプリントを返すと「キャー!」と叫び、席に戻っていきました。うれしさのあまり、ぴょんぴょんと飛び跳ねています。

 3年生のMくんは、隣の子のレインボータイムの丸付けが気になるようでした。一つずつ○が増えていく様子を見守り、たまに☆がつくと「あっ」という顔をします。そして丸付けが終わると、また自分のプリントに向かいました。Mくんが友達の丸付けの様子に注目しているのは、自分よりも先に全問正解されると悔しいからです。

 レインボータイムの問題のなかには、大人でも頭を悩ませるようなものがあります。だからこそ、解けたときの快感がたまらないのです。それこそ小躍りしてしまうくらいに。難しいと感じる問題、つまり「ちょっとした逆境」を越えたとき、うれしさや達成感、満足感を得られます。この積み重ねが、困難に対応する力につながります。

 今月は算数大会を行いました。この大会にも「ちょっとした逆境」があります。今回は隣同士でペアを組み、小声での相談ならOKというルールにしました。ちょうど2人ずつに分けられましたが、欠席の連絡があり、一つだけトリオのチームができました。そのとき、「ずるい!」「勝たれへんやん」という声が上がりました。自分のチームは2人なのに、あのチームは3人いる。人数が多いほうが有利だろう。そう考えての言葉でしょう。大人数だといろいろなアイデアが出るし、得点がたくさん入りそうです。ですが、大切なのはそういうことではありません。

 「確かに3人のほうがよく見えるけど、2人しかいないなら、3人分の力を出そう。人数にこだわってもしょうがないよ」と伝えてゲームを始めました。そこからはもう、子どもたちは自分のチームのことに集中していきます。チームの人数やメンバーについての不満は消えていました。

 ゲームの一つに「この数字はなんの数字?」というものがありました。数字とそれが意味するものを結びつけるゲームです。たとえば「新幹線が止まる駅の数」「救急車を呼んだら何分で来てくれる?」「いちばん長い新幹線は何両編成?」「日本にある消防車は何台?」という質問と、「9」「17」「22000」「107」という数があります。どの質問とどの数字が結びつくでしょう。

 どの教室でも、子どもたちの第一声は決まって「いや、わからんし!」というものでした。確かに、電車好きでなければ新幹線や駅の知識はないでしょうし、消防車や救急車はよく目にするけれど、細かいことまでは知りません。数字に単位がついていないことも、この問題のレベルを上げています。ですが、だからといって「わからん」で終わらせていいのか。そんなことはありません。

 「新幹線が止まる駅の数って言われても、すぐにはわからんもんな。じゃあ、救急車の問題はどう?もし救急車が来るまでに22000分とか107分かかったらどうだろう。そうそう、大変なことになっちゃう。ということは、9か17のどちらかだ。こんなふうに考えてみよう」

 考える前に「わからない」と口にしてしまうことは、誰にでもあると思います。大切なのはそのあとです。「わからない」「無理」では思考をストップさせてしまいますが、「どうすればわかるようになるだろう」「どうすればできるだろう」と考えることで、前に進む足がかりになります。とはいえ、いきなり大きな難題が現れると、心は折れてしまいます。だから「ちょっとした逆境」を乗り越える経験を積み重ね、いずれやってくるであろう大きな逆境にもひるまない心を育てていきたいと思います。キューブの問題が解けた、「なぞぺー」(思考力教材)を考え抜いて正解した、算数の問題に納得できた…。ちょっとした逆境は、その子によって異なりますが、毎週何か一つ越えられるような授業を行っていきます。

花まる学習会  椿原葵(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

花まるコラムカテゴリの最新記事