【花まるコラム】『一人ひとりに見合った“挑戦の機会”』加藤美耶乃

【花まるコラム】『一人ひとりに見合った“挑戦の機会”』加藤美耶乃

 小さな挑戦を重ねて少しずつ自信を付けていった、年長クラスに通うAくんのお話です。
 初回授業の日、Aくんはテキスト『ひまわり』のどのページを見ても「やりたくない」「これ嫌い」「帰りたい」と後ろ向きな発言をしていました。教室長が読む言葉を復唱しながら目で追うことばのページでは、Aくんも最初は復唱しようとするのですが、発音を間違えそうになると「読みたくない!」と言ってテキストを閉じてしまいました。Aくんは、つっかえてしまうのがいやだったのでしょう。私が一緒に読んでサポートするも、「こういうの嫌いなんだよ!」とそっぽを向いてしまいます。これも彼なりの強がりなのだと感じた私は、その日は楽しく学ぶというよりも、Aくんが花まるとひまわりを好きになり、そして最後まで終えて達成感を得られることを目標に授業を進めました。競争にしたり、やりたくないページは後回しにしたり、アレンジを加えて取り組んだりと、Aくんの気持ちを尊重して進めていくと、完璧ではなくても楽しんで最後までやり切ったAくん。全ページに花まるをもらい、嬉しそうな顔をして帰って行きました。

 そして迎えた2回目の授業。早くもAくんに変化が見られました。ことばのページで私が一緒に読もうとすると、Aくんは「僕は覚えたから、もう言わない!」と声を止めました。私が「本当?言えるの?」と聞くと、「あいうえ…やっぱり僕は苦手だからいや!」と、やはりテキストを閉じてしまいます。しかし、まず自分から読もうと挑戦したことが立派な成長です。さらに、前回はここで諦めてしまったけれど、もう一度私が一緒に読もうと提案すると、なんとAくんはたどたどしくも素直に最後まで発声することができました。そして、初回授業で何度も口にしていた「帰りたい」という発言は、60分間でたった1度だけ。私はその姿を見て、Aくんに見合った“挑戦の機会”を作っていこうと心に決めました。

 たとえば、ことばのページでは「今度は先生のあとに続いて1人で読んでみよう!」「今回は初めて見る文章だけれど、間違えてもいいから真似っこしてみよう!」と、少しずつ自分自身でできることを増やしていく、というふうに。そのときの私の役割は、うまくいかなかったら手を貸して、できたときにはとことん褒めること。毎回授業の最後に「今日は花まる何個かな?」と数えるAくんの姿は、愛おしく、誇らしいものです。挑戦を積み重ね、Aくんは徐々に自信をつけていきました。

 初回授業から2か月が経ったいま。Aくんは、あれだけ嫌いと言っていたことばのページも「早くこれやろう!」と言って、1人で立派に復唱できるようになり、わからないときや間違えてしまったときも、「よーし、頑張るぞ!」と立ち向かう勇気をもてるようになりました。

 彼の成長を間近で見て、人が成長するには、一人ひとりに見合った“挑戦の機会”が必要なのだと感じました。何か新しいことを始めるとき、1回目では無理な挑戦でも、2回目だったら頑張れる。2回目では難しいことも、3回目ならうまくいく。そのように、それぞれの段階に合わせて“挑戦の機会”を作ることで、成功体験を積み重ねることができます。そして、「また次も挑戦しよう!」という勇気がもてるのです。教室でも、子どもたち一人ひとりに見合った“挑戦の機会”を作ってまいります。

花まる学習会 加藤美耶乃(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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