【花まるコラム】『季節を感じて』吉田優太

【花まるコラム】『季節を感じて』吉田優太

 先日、一人の女の子から「くり」をもらいました。それも、丁寧にラッピングされていました。私の名前をかわいい手紙に書いて、きらきらしたマスキングテープで止めてくれていました。突然のプレゼントに驚く私を見て「その表情が見たかったの~!」とでも言うように、満面の笑みを浮かべるAちゃん。「どうしてプレゼントをくれるの?」と聞いてみました。Aちゃんは、こう答えます。「この前行ったキャンプ場に、栗の木があったの。『秋といえば、栗ひろいでしょ!』と思って拾ったら、『誰かにあげたい!』と思って、お父さん・お母さんと、先生にもあげようと思ったんだよ!」と伝えてくれました。Aちゃんは、小学1年生。よく考えているなあ~と、感心しました。食欲の秋、栗も秋を感じさせてくれる風物詩の一つです。昔は人間の主食でした。クリ林が「財産」として勘定されていたのは鎌倉時代です。いまでは財産ではなくなり、人間の主食からも外れています。それでも秋になると「栗ご飯」を食べたくなるのは、季節の風物詩ゆえか、栗の純粋な美味しさゆえか、はたまた、人間の中に脈々と受け継がれているDNA故か…。味も含めて、吟味したいところですが、お腹が減りました。食べたくなる理由の議論にはとても興味がありますが、栗ご飯の「おいしさ」には、大満足する人が多いようです。そこには議論の余地はないようなので、この話はここで止めておきます。

 ある日、Aさんのお母さまから相談を受けました。「うちの子、『夢中になる経験』をしていますか?このままで大丈夫なのでしょうか?」と。私は授業中の様子と合わせて伝えました。

 「授業中、新しい迷路問題に出合うと、まずは自分で挑戦することのできるAちゃん。その集中力と、パっと手が動く始動力がステキです。そして、一度ゴールしても次の問題にはま進まず、その問題を満足するまで楽しみ尽くしています。『この迷路に、扉をつけていい?』『空を飛んでゴールしたら一瞬だよね』『あ、宝箱の前に落とし穴を作っちゃお!!』と、無限の発想力で楽しみ尽くします。そして野外では、キャンプ場にくりがあることを知って、だれにあげるかまで考え抜きました。それって充分、夢中になるための原体験です。とってもステキなこと。そこからの『もっとやりたい!』という気持ちを大切にしましょう。現に、ご両親や私にくりをプレゼントできたことが嬉しくて、その翌週には、おじいちゃん・おばあちゃんやテーブルの先生にも渡そう!とアイディアが広がりましたよね。もう、夢中になっています。そのままでいいんですよ」

 お母さまは安堵したようでした。そして、「母の『やらせたい』ではく、わが子の『やりたい!』をこれからも大切にしていきます」とおっしゃいました。後日談ですが、「くりのプレゼント」はお母さまがかなりサポートしてくださっていたようです。くりの状態が悪くならないように、冷蔵庫で保管。ラッピングなどもAちゃんの主体性を尊重しながら、手伝い過ぎず、投げ出さないように…と、良い塩梅で側についてくださっていたとのこと。季節を感じることのできる「『最幸』の贈り物」を、本当にありがとうございました。

 子どもたちへのサポートと言えば、日々の宿題への「花まる」も、本当にありがとうございます。保護者のみなさまへの感謝の気持ちが、またふつふつと湧き上がってきました。日頃から頑張ってくださっているのは、保護者のみなさまも同じです。どうしても丸付けができないときは、「頑張ったね」だけで構いません。一言、お子さまに声をかけてあげてください。「また頑張ろう!」そんな意欲が育めれば、それで充分です。

 いま、私はキャンプ場にいます。思い立って一人で来てしまいました。さっきまで夕焼けが見えていましたが、気がつけばもうすぐ日が落ちそうです。今日は飯盒で炊く栗ご飯。炊き過ぎないうちに筆を置いて、焚火の火を落としにいこうと思います。

花まる学習会 吉田優太(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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