「自分のやりたいことって何だろう?」そんなふうに悩んでいる時期が、私にはありました。では、いまはどうなのか?子どもたちと学ぶこの時間を大切にしていきたい、そして自分にできることを日々考えながらともに学んでいきたいと考えています。子どもたちのことを想像しながら準備をする時間。子どもたちと過ごす授業での時間。子どもたちが帰ったあとに片付ける時間。私にとってすべての時間が愛おしく、かけがえのないものです。みなさまも、だれかのためを想って行動することが、自分の喜びとなる経験があるのではないでしょうか。
以前、「生き物博士」と教室で呼ばれていた子がいました。当時、6年生のKくんです。彼の生き物に対する深い愛情と豊富な知識は、とても魅力的でした。今回は、そんな彼のお話です。
過去に、クラスメートと気が合わず悩んでいた時期があったKくん。どんな生き物でも大切にする心が素敵だと感じる子もいますが、それが理解できない子も少なくはありませんでした。そんな雰囲気の学校に行くのが少しずつ億劫になっていったそうです。悩んでいた時期に、Kくんの叔父が交通事故に遭い、下半身不随になってしまいました。それを見たKくんは「自分が叔父に何かしてあげたい」と、そう強く思ったそうです。その時期、たまたま興味をもっていた『プラナリア』が再生医療の分野で研究されていることを、Kくんは知りました。プラナリアは、同じ細胞や組織の分裂が可能な生物です。義手・義足ではない自身の再生能力を高め、叔父に再び自分の足で歩いてもらうことが、いつしか彼の夢になりました。
家にこもりがちだったKくんの行動は一変しました。家でプラナリアの生態観察をし、個体の数を増やし、自分なりに調査。自らインターネットを使い、プラナリア研究に詳しい大学教授のもとに赴き、たくさん質問をしたそうです。そんな彼の変化に一番驚き、感動したのは、Kくんのご両親でした。それまでは、「ただ笑って生活してもらえればいい」と思っており、Kくんの気持ちを尊重したいと見守っていらっしゃったそうです。自ら行動するKくんの変化に、お母さまは目に涙をうっすら浮かべて、「私が救われた気持ちです」と、おっしゃっていました。
自分がやりたいことに向かって、躊躇なく進むことができたKくん。彼のように、「だれかのために」というまっすぐな想いは、行動に変化をもたらします。彼も最初は明確な夢があったわけではなく、「生き物が好き」という気持ちから始まりました。そのあと身近で起きたことに、自分の好きな生物が役立つと思い、具体的な夢につながっていきました。
やりたいことに取り組んでいくこと。それができていると言える人が、世の中にどれだけいるのでしょうか。生き生きとやりたいことに向かって進んでいく。そして、それがいつか誰かのためになりうる可能性があるのだと考えると、幸せだと思います。
Kくんの教室での変化は、気が進まなかった作文を楽しそうに自ら書くようになったことです。「いつか自分の研究が誰かのためになる!」と感じ、作文やノートに研究内容を残すことにしたそうです。
以下に、夢を綴ったKくんの作文を一部抜粋して載せます。これからも、教室で見ている子どもたちのことを応援し続けながら見守ってまいります。
『再生医りょうの夢』
ぼくは将来、研究者になりたいです。なぜかというと、再生医りょうを進歩させて足や手がない人に足や手を自由につかわせてあげたいからです。~中略~ふと、「イモリやプラナリアのDNAを人のDNAとくっつけることができれば足や手ができたり、動かなくなった足や手を動かせるようになったりするのではないか」と思いました。~中略~世界中の研究者がこの再生医りょうの研究をしましたが、全員失敗してしまいました。でもぼくはあきらめません。大人になったらこの研究を絶対成功させて、人々を笑顔にしたいです。まけないぞ!
花まる学習会 谷田川美冬(2021年)
※花まるだより2022年9月号掲載
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。