【花まるコラム】『信頼』金澤巧真

【花まるコラム】『信頼』金澤巧真

 先日、西郡学習道場を卒業する6年生が卒業の記念に習字をしました。5年生から在籍していたSくんは、「信頼」という2文字を書いていました。非常に嬉しい言葉を書いてくれたSくんは、スクールFC中学部に進むことが決まっています。しかし、思い返すと教室に来た当時からは考えられないことでした。

 Sくんはよく泣く子でした。多少の発達の遅れがあり、問題を解けないときや課題を持ってくるのを忘れてしまったときなどに、よく泣いていました。ずっと引きずることはなく、程なく切り替えることができるので、授業では大きな問題はありませんでしたが、学校ではそのことでからかわれていたようです。しかし、私が一番気になっていたのはSくんが学校の授業中に立ち歩いたり別のことをしたりすることを許されていることでした。学校で「仕方のない子」とくくられてしまったせいで、周囲から随分と浮いていたと思います。私が実際に見たSくんは、確かに集中は切れやすいのですが、真剣に勉強に取り組もうという意思がしっかりと見てとれました。学校ではなく、道場という場所だからこそ、「仕方のない子」とくくらず、焦らずじっくりとかかわり合うことをはじめに決めていました。

 はじめのうちは忘れ物が多かったSくん。本気で悔しがる姿から、怠けて忘れている訳ではないことが良くわかりました。そのため、忘れ物をしても叱ることはせず、次に忘れないために必ずメモをとることを約束しました。その後も、持って来られる日もあれば、持って来られない日もありました。それでも、Sくんはめげずにメモを取り続けていました。次第に私が声をかけなくても、自分で忘れたことをメモするようになりました。書き方にも工夫が見られるようになり、大きく派手に書くこともあれば、イラストを添えていることもありました。忘れ物をしたらメモをすることが1か月ほどで習慣となり、それが3か月程続いた頃、Sくんの忘れ物は随分と減りました。課題に対しても、できないことを叱ることはせず、どうすればできるかを毎回一緒に考えました。分析して、対策を練り、行動に移す。たとえば、毎日取り組むべき計算教材ができないときは、取り組む時間帯を考えました。まず朝にやると決めますが、実行できませんでした。次に、お風呂に入った後と決めますが、これも実行できません。しかし、家に帰ったらすぐ取り組むと決めると、実行できることが増えていきました。トライ&エラーを繰り返していき、本人が次第に自分でできることを実感し自信を持てるようになっていきました。

 忘れ物が減り、授業中に落ち着けるようになっても、不安定なところがあったSくん。その原因はやはり学校でした。お母さまからの相談もあり、Sくんと学校のことも話すようになりました。Sくんはありのままを話してくれました。学校でついついやってしまう、本当は良くないことを。注意をしたいところですが、決して否定はせずに1つずつ目標を立てていきました。まずは、授業中に教室から出ないこと。次に、授業中に席を立たないこと。そして、授業にできるだけ参加していくこと。すぐにはできないことも多かったですが、次第にSくんは学校も楽しめるようになっていきました。決め手は5年生の運動会で、クラスメートと力を合わせて競技をしたことで意識が随分と変わったようでした。そして、5年生が終わる頃、すっかりSくんは泣かなくなっていました。

 1年と長い時間がかかったものの、失敗したことを反省して、次に生かす経験を多く積んだSくん。できないことを否定せず、長い目で見てじっくりとかかわっていくことが、Sくんからの大きな信頼につながったのだとも思います。根底にあるのは、『種は芽が出る芽は育つ、そういう風にできている』という道場の理念。つまり、できない子はいないということです。こちらが子どもの限界を決めつけなければ、子どもはすくすくと成長していくことをこれからも信じてかかわり続けていきます。

西郡学習道場 金澤巧真(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員のみなさまにお渡ししています。

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