何事も、「良いこと」と「悪いこと」の明確な線引きは難しいものです。それは本についても同じで、「どれが良い本で、どれが悪い本なのか」という問いにきっぱりと答えるのは、非常に困難であります。
そもそも論として、世の中に絶対的な「良書」と「悪書」というものはありません。専門家が「良書」としてすすめる本を読んでも、なにも得るものがなかったというケースは多々あります。逆に、世間では「悪書」とされている本を読んで自分なりに考えたことが、のちの人生に大きな影響を及ぼすことも十分あり得ます。
その本を読むときの読み手の興味関心や発達度合い、タイミングなど、読書には実に様々な要因が絡まるのです。 とはいえ、「本ならなんでもいい」というわけにはいかないのもまた事実。日々のびのびと成長していくことを仕事とする子どもたちが、 可能な限り実りある読書生活を送るには、どんな本がふさわしいのでしょうか。なにか、指針になるようなものはないのでしょうか。
■子どもに媚びている「おやつの本」
一つたしかに言えることを、たとえを使って表現してみます。――子どもには、「おやつの本」よりも「ご飯の本」をたくさん読ませるのがベストです。
これは子どもの本の専門家である藤井勇市さんが著書のなかで使っていた表現でもあります。また、日本を代表する国語教育者だった大村はまさんも、たとえ話のなかで使っていた表現です。
子どもが自分から手に取りやすいのは、ともすれば「おやつの本」に偏ってしまうと言えます。見た感じはなんとも人目を引くような作りでおもしろそう、中身はたしかにさまざまな事件や出来事が起きて勢いよく読める…しかし、一生ものの栄養になるようなものは得られないような類の本です。
なかには、「どうせ子どもだから」と手を抜いた言葉選びやイラストのもの、登場するキャラクターの魅力や宣伝効果だけで、結果的に子どもから人気を得ているものもあります。
明らかに子どもに「媚びている」かのような受け狙いに走ったものも多くあり、 実は巷にあふれている「子ども向け」の多くは、このような「おやつの本」であるとも言えます。
子どもが楽しさを感じられることは大切なポイントです。しかし、 子どもの「ウケる」という感情を当てにしすぎるのは避けるべきです。
「ご飯の本」は、 それらとは対極にあります。子どものためにとことん考え抜かれた作りになっていて、物語世界にどっぷりと浸ることができ、一生の栄養になるような、骨太な力を得られる本です。
スクールFC 平沼純