■「ベストセラー」よりも「ロングセラー」を
概して、売れている「ベストセラー」よりも、ときを越えて読み継がれてきた「ロングセラー」に良書が多いというのはたしかです。時代を越えても途切れることなく読み継がれてきたということは、それだけ物語として純粋に「おもしろい」 という証拠です。
「ご飯の本」と「おやつの本」は、そのまま「ロングセラー」と「ベストセラー」に言い換えられるといっても過言ではないでしょう。
いま読んでいるのが「ロングセラー」かどうかを見分けるのは、実に簡単です。本の奥付にある、発行年と印刷された回数を見ればいいのです。
たとえば、長いこと子どもたちの心をとらえてきたバージニア・ リー・バートンの『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』は、 初版が1961年。東京オリンピックが開催される前から、延々と読み継がれてきているのです。
ビアトリクス・ポターの『ピーターラビットのおはなし』 にいたっては、いしいももこ訳が日本で出たのは、1971年ですが、イギリスでの初版はなんと1902年!100年以上のときを経ても、古さを感じさせない普遍的な力があります。
ときには「おやつの本」があってもいいと思います。しかし、大切なのはバランス。
時代を越えて読み継がれてきた、歯ごたえのある「ご飯の本」 の楽しさを、たくさんの子どもたちに知ってもらいたいと強く思います。
『ピーターラビットのおはなし』
ビアトリクス・ポター 作・絵/いしい ももこ 訳/福音館書店
『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』
バージニア・ リー・バートン 文・絵/むらおかはなこ 訳/福音館書店
◆作るのに長い年月がかかった子どもの本
日本昔ばなしの「つるのおんがえし」を 絵本化した、国際アンデルセン賞画家・赤羽末吉さんによる『つるにょうぼう』は、 依頼から出版までに、 実に7年もの歳月が費やされています。
赤羽さんは依頼を受けてから、 東北地方の山々や東京の歴史博物館などを回り、 絵として描くための東北地方の風景や機織り機、 中世時代の人の服装などを徹底して取材したそうです。
絵本のなかに描く風景や時代設定、物などがでたらめなものにならないようにする、赤羽さんのこだわりです。
「いいか、相手は子どもなんだぞ」というのは赤羽さんの口癖だったとのことで、「子どもにこそ最高のものを」という強い意志の力が窺えます。
また、ニューヨーク・タイムズで「20世紀で最も美しい本の一冊」と評された、アイリーン・ハースの『サマータイムソング』 は、前作から10年もの歳月を経て完成された本です。
読んでみるとわかりますが、まさに、細部に至るまで考え抜かれたとはこういうことかと思える、非常に精緻で美しい本です。
参考:『現在、子どもたちが求めているもの』斎藤 惇夫 著/キッズメイト
『つるにょうぼう』矢川 澄子 再話/赤羽 末吉 画/福音館書店
スクールFC 平沼純