【読書の旅コラム❹】『「おやつの本」よりも「ご飯の本」を〈後編〉』平沼純 2021年5月

【読書の旅コラム❹】『「おやつの本」よりも「ご飯の本」を〈後編〉』平沼純 2021年5月

■「ベストセラー」よりも「ロングセラー」を

 概して、売れている「ベストセラー」よりも、ときを越えて読み継がれてきた「ロングセラー」に良書が多いというのはたしかです。時代を越えても途切れることなく読み継がれてきたということは、それだけ物語として純粋に「おもしろい」 という証拠です。
 「ご飯の本」と「おやつの本」は、そのまま「ロングセラー」と「ベストセラー」に言い換えられるといっても過言ではないでしょう。

 いま読んでいるのが「ロングセラー」かどうかを見分けるのは、実に簡単です。本の奥付にある、発行年と印刷された回数を見ればいいのです。
 たとえば、長いこと子どもたちの心をとらえてきたバージニア・ リー・バートンの『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』は、 初版が1961年。東京オリンピックが開催される前から、延々と読み継がれてきているのです。
 ビアトリクス・ポターの『ピーターラビットのおはなし』 にいたっては、いしいももこ訳が日本で出たのは、1971年ですが、イギリスでの初版はなんと1902年!100年以上のときを経ても、古さを感じさせない普遍的な力があります。

 ときには「おやつの本」があってもいいと思います。しかし、大切なのはバランス。
 時代を越えて読み継がれてきた、歯ごたえのある「ご飯の本」 の楽しさを、たくさんの子どもたちに知ってもらいたいと強く思います。

『ピーターラビットのおはなし』
ビアトリクス・ポター 作・絵/いしい ももこ 訳/福音館書店
『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』
バージニア・ リー・バートン 文・絵/むらおかはなこ 訳/福音館書店

◆作るのに長い年月がかかった子どもの本
 日本昔ばなしの「つるのおんがえし」を 絵本化した、国際アンデルセン賞画家・赤羽末吉さんによる『つるにょうぼう』は、 依頼から出版までに、 実に7年もの歳月が費やされています。
 赤羽さんは依頼を受けてから、 東北地方の山々や東京の歴史博物館などを回り、 絵として描くための東北地方の風景や機織り機、 中世時代の人の服装などを徹底して取材したそうです。
 絵本のなかに描く風景や時代設定、物などがでたらめなものにならないようにする、赤羽さんのこだわりです。
 「いいか、相手は子どもなんだぞ」というのは赤羽さんの口癖だったとのことで、「子どもにこそ最高のものを」という強い意志の力が窺えます。
 また、ニューヨーク・タイムズで「20世紀で最も美しい本の一冊」と評された、アイリーン・ハースの『サマータイムソング』 は、前作から10年もの歳月を経て完成された本です。
 読んでみるとわかりますが、まさに、細部に至るまで考え抜かれたとはこういうことかと思える、非常に精緻で美しい本です。
参考:『現在、子どもたちが求めているもの』斎藤 惇夫 著/キッズメイト
『つるにょうぼう』矢川 澄子 再話/赤羽 末吉 画/福音館書店

スクールFC 平沼純


著者|平沼 純 井岡由実 教育心理学を研究し、「自分の視点を持って考え、力強く生きていく力の育成」を目指して教育の世界へ。国語を専門とする学習塾で読書・作文指導などに携わったあと、花まるグループに入社。現在、小学生から中学生までの国語授業や公立一貫コース授業のほか、総合的な学習の時間である「合科授業」などを担当。多数の受験生を合格へ導くとともに、豊かな物語世界の楽しさ、奥深さを味わえる授業を展開し続けている。


『子どもを本好きにする10の秘訣』(実務教育出版) 井岡由実 子どもを本嫌いにさせるNGワードを、ついつい口にしていませんか?生まれつき本が嫌いな子どもは一人もいません。でも、本に興味をもたせるにはちょっとしたコツが必要。「本を選ぶときや、読み聞かせをするときに気をつけることは?」「本を読むことで身につくことには、どのようなものがあるのか?」「そもそも、本はなぜ読まなければならないのか?」 実際の読書指導の現場から見出されてきた実感・知見をもとに、子どもを本好きにする秘訣をお伝えします。

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