アウト・ドア。それは、家の外ではなく、安泰の外。コンフォートゾーンの内側で冒険が眠りつくとき、ドアは現れる。しかし、思い切ってドアの外に踏み出せば、そこにはきっと人生を変えてしまうような「何か」———「すてきなサムシング」が待っている。これは、職人がアウトドアで見つけたサムシングのレポートである。
先輩の結婚祝いにイーゼルを作ったことがある。そのお礼にと、後日ホームパーティーに呼ばれた。旦那さんがベトナムの方だったこともあり、料理はすべてベトナムの家庭料理だった。私が春巻きをムシャムシャしていたとき、その旦那さんが言った。「あなたはベトナムの人みたいに食べますね」。そのとき私は生春巻きに包む具材を勝手にアレンジしていた。手巻き寿司感覚で食べていただけなのだが、お手本通りではなく好きに具を組み合わせているところが、まるで本国の人のように見えたということらしい。「創造力があるんですね」と言われて、私は嬉しくなった(そしていまだにその思い出を口の中で転がす)。創造とは、既存の要素の新しい組み合わせにすぎないという。そういう意味では、料理は創造とほぼ同義だ。
話はファミリーレストランに移る。私は三つの料理を注文している。タラコスパゲッティ、粉チーズ、ムール貝のオーブン焼き。料理を待つあいだはドリンクバーで楽しむ。紅茶とソーダをを3:7の割合でまぜると、爽やかなティーソーダができる。席を立ったついでに、おしぼりと塩とブラックペッパーのミルを取ってテーブルに戻る。そしてソーダを飲みながらテーブルにある間違い探しをして待つ。7つ見つけたあたりで先に運ばれてくるのはスパゲッティとチーズだ。ムール貝はまだオーブンの中にいる。すべてが揃うのを待つのは、スパゲッティの温度が下がるのでおすすめしない。スパゲッティの熱が高いうちにチーズをすべて入れてしまおう。ざっくりと全体をまぜると、余熱でチーズがほどよく溶ける。この状態でも十分おいしいが、そのままムール貝を待つ。成功には忍耐がいるものだ。さて、ここでひとつ注意がある。空いたチーズの皿を下げられないようにすること。あとで使うからだ。合理的なマニュアルで鍛えられたスタッフは、一度ホールに出ると手ぶらではキッチンに戻らない。このタイミングでチーズの皿を下げられないように気をつけよう。
やがて、オーブンで焼き上がったムール貝が届く。スタッフさんにお礼を伝えたら速やかに作業に移ろう。まずはおしぼりを使って焼きたての貝殻をつまみ、スプーンですべてのムール貝をスパゲッティの皿に移す。貝殻はチーズの小皿へシュート。殻入れとして使うわけだ。次はヤケドに注意。おしぼりは4つ折りをおすすめする。熱々の皿を持ち上げて、中に残ったオイルを手早く掻き出してスパゲッティにかける。これで山は越えた。全体を軽く和え、仕上げに塩とブラックペッパーで味を調える。これで完成。さあさあ、始まりだよ。
フォークを口に入れる前から味が始まる。まずブラックペッパーの香りが届く。時間差でかぐわしきソースの香り。口に入れるとタラコソース、生クリーム、チーズが調和したコクの三重奏。それをガーリックオイルの風味が包み込み、ムール貝が潮気とともにアクセントを加える。いくつもの旨味が複雑に絡み合い、口いっぱいに広がる。多めのチーズがたっぷりとソースを吸い込み、もったりとした食感を生み出しつつすべてのおいしさを麺にまとわせているのだ。味、香り、食感、すべてが渾然一体となり、うまさが乗算されてニューロンが破裂し、脳が飛ばされる。「まるで味の数え役満や~」ってわけだ。「それ、彦摩呂かい?」いいや俺だよ。
ドリンクバーをまぜる? 安い料理をありがたがる? そんなことできない……もしそう思うなら、あなたの前にはドアがある。行こう、アウトドアへ。
花まる学習会 橋本 一馬

完成。「幸福」と名付けた。
🌸著者|橋本 一馬(職人)
花まる学習会教室長。家具職人だった経歴からミドルネームは「職人」。家具製作技能士、狩猟免許、ブッシュクラフトアドバイザー、古代発火法検定など、さまざまな資格や技能を織り交ぜた教育的アプローチが好き。キャンプ行きがち。アイス食べがち。