アウト・ドア。それは、家の外ではなく、安泰の外。コンフォートゾーンの内側で冒険が眠りつくとき、ドアは現れる。しかし、思い切ってドアの外に踏み出せば、そこにはきっと人生を変えてしまうような「何か」———「すてきなサムシング」が待っている。これは、職人がアウトドアで見つけたサムシングのレポートである。
無人島で多くの子どもたちを迎えているうちに、気づいたことがある。それは、「ここが子どもたちの最後の目的地になっているんじゃないか」ということだ。花まる子ども冒険島は野外体験の集大成。野球でいえば甲子園。それは混じりっけなく素晴らしいことだ。しかし、そのあと彼らの冒険はどうなるのだろう? 合格しても勉強を続けること。引退しても運動を続けること。それが「学ぶこと」の核心的な価値なのだとしたら、「大人になっても冒険を続けること」。それにも同じ価値があるはずだと思った。キーワードは「習慣」。いわば甲子園のような非日常の大冒険に対する、草野球のような日常的な小冒険。そんな「習慣的な外遊び」によって、冒険し続ける大人になること。それが「メシが食える大人」になるための、野外体験のもうひとつの目的地なのではないか。そんな想いが膨らんできて、新しい企画のかたちが見えはじめた。
そんなわけで涙とともに無人島に別れを告げ、神奈川に戻ってきた。0からの出発。やったこともなく、見たこともないものを作らなければならない。しかし、これもまた新しい冒険。やってやるぜい。まずはコンセプトだ。イメージは、早い、うまい、安い、を繰り返すような感じ。第一に「早い」こと。手軽でなければ習慣にならないからだ。もし吉野家がなかったとしたら、日本人が一生のうちに食べる牛丼の量は中華丼くらいになっていたはずだ。たぶん。さておき、外遊びの手軽さとは、日帰りできることではなかろうか。つまりは近さ。ということは、関東近郊で、自然の中でのびのびと遊べて、お財布に優しいキャンプ場…? そんな場所あるのか。うーーーん、ある。
清津峡キャンプ場は、神奈川の表丹沢にある昔ながらのキャンプ場である。個人的に10年くらい前から利用していて、遊び慣れた場所でもある。オーナーの沖西さんは音楽と外遊びに詳しい人だ。管理棟にはいつでも弾けるようギターが立てかけてあり、ラジオからは洋楽が流れている。たくさん山の遊び方を知っていて、クルミやクワの実を採ったり、ミミズでマスを釣ったり、竹トンボや竹馬をその場にあるものであっという間に作ったりする。子どもたちの好奇心と主体性をくすぐる人間と自然。そして日帰りできる立地。これほど条件が揃った環境はそうないだろう。ここに自分のいままでのキャンプの知見を注ぎ込む。一体何ができるのだろうか。考えただけでもワクワクしてくる。ああオレは、こうやって生きていくんだ。
「習慣的な外遊びのきっかけをつくる」。そのために、新しい野外体験をはじめた。それは習慣(Habit)と外遊び(Camp)の掛け合わせ。それでは、オレが作った曲を聴いてください、「ハビキャン」。
花まる学習会 橋本 一馬

🌸著者|橋本 一馬(職人)
花まる学習会教室長。家具職人だった経歴からミドルネームは「職人」。家具製作技能士、狩猟免許、ブッシュクラフトアドバイザー、古代発火法検定など、さまざまな資格や技能を織り交ぜた教育的アプローチが好き。キャンプ行きがち。アイス食べがち。