【花まるパパ社員のわが家の自由研究⑯】ファイヤーの自由研究④『長女、はじめての家出はどこへ行った?』箕浦健治 2025年9月

【花まるパパ社員のわが家の自由研究⑯】ファイヤーの自由研究④『長女、はじめての家出はどこへ行った?』箕浦健治 2025年9月

 娘二人が幼稚園に通い出す頃に、家族のルールに「食べ物でケンカはしない。食べ物でケンカすると心が貧しくなるから」というものを加えました。

 娘二人が食べ物でケンカしているのを見ると、親として心が痛みました。ケンカしないだけ買ってあげなかった自分を責めたこともありました。
 私は家族での食事を大切にしたいと思っています。笑いながら家族で食事をする時間は、かけがえのない時間です。これから大きくなる娘たちには、食べ物でケンカはしないで、ケンカになりそうなときは譲ったりして、相手を思いやる心を持ってほしいという願いもありました。小学生になっても中学生、高校生、そして大人になっても娘たちは、食べ物でケンカしそうなときは、「食べ物でケンカしてはいけない。心が貧しくなるから」と言って、話し合いで解決しています。それを見て、ちゃんと伝えてきてよかったと思います。

 長女が小学生の頃。大型台風が近づき雨風が強くなってきた夕方、帰りの遅い長女を家族みんなで心配して家で待っていました。そろそろ探しにいこうかと思ったとき、長女が帰ってきました。玄関でずぶ濡れになりながら立っています。その腕のなかには小さな子猫がいました。子猫が濡れていない様子から、子猫が濡れないよう傘もささずに守って帰ってきたことは一目瞭然でした。
 「どうした?」という私の問いかけに、うつむきながら「捨てられていた」と長女は答えました。外は風が強く家を揺らしています。雨は会話が聞き取れないぐらいの音をたてて降っています。「中に入って着替えなさい」と言うと、長女は静かに家に入ってきました。家族会議の末、子猫が家族の一員となりました。

 そんな心優しい長女が中学生の頃、一度だけ家出をしたことがあります。理由は些細なことだったと記憶しています。妻と言い合いになり、「出て行く!」と言って長女は勢いよく家を飛び出しました。長女が出て行った玄関を見ながら、私は長女の幼少期のことを思い出していました。ようやく一人で外を歩けるようになった頃、はじめて買ってあげた靴を玄関で左右反対に履き、笑顔で歩こうとした長女のことを。「違うよ」と正すのではなく、「すごいね、自分で履けたんだね」と伝えると、最高の笑顔を見せ、歩けなくて転んだ日のことを。こういうときもちゃんと靴を履いて出て行った娘を想像して、成長したのだとしみじみ感じていました。

 玄関に立ちすくむ私を見ていた次女が業を煮やして「お父さん……探しに行く?」と心配そうに言いました。
 時間は20時くらいで外は真っ暗です。中学生の女の子が一人でふらふらしているのを想像すると心配でなりません。妻は平静を装っていますが、心配していることは伝わってきました。30分ほどして次女が「探しに行ってくる」と長女のお気に入りのハンカチを持って、家の外に出て行きました。
 当時マンションの14階に住んでいて、次女は一人でエレベーターには乗らないので、遠くに行くことはないと思い、そのまま肯定も否定もせず見守りました。

 数分後、次女が玄関のすき間から私を呼んでいます。そばに行くと「見つけたよ」と笑顔で教えてくれました。「どこにいたの?」と聞くと、「14階と13階の間の階段だよ」と階段のある方向を指さしました。

 その夜の家族団らんは、笑いが絶えませんでした。デザートで娘二人がケンカしそうになったとき、次女が「お姉ちゃんは勇気を出して13階の階段まで家出したから、譲ってあげる」と言ったことが印象的でした。これから「家出」という単語が出るたびに、次女は長女の出来事を嬉しそうに話すのだろうなと思います。
 ちなみになぜ14階と13階の間だったかというと、探してくれると思ったから、すぐにわかるところにいたということでした。

 子どもが育ち、大きくなったときにこういう笑い話がたくさんあると「幸せだな」と心から感じることができます。
 大きくなった娘二人を見て、靴を左右反対に履いても、猫を拾ってきても、家出をしても、「間違えているよ」ではなく、「頑張ったね」という子育てをしてきてよかったと思っています。

 次回は「エレベーターが到着すると、毛布を被った裸足の長女と次女が乗っていた!」をお届けします。

花まる学習会 箕浦健治

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