6年生のAくん。いつもお母さまに言われてからしぶしぶ宿題をするか、「終わった終わった」と嘘をついてゲームをしているか。そんな状態のAくんにお母さまのイライラはピークを迎えていました。そこで、Aくんのお母さまには「この1週間は“宿題をやったの?”と声をかけないでください。やっていなかったら、そのときは私からAくんに話しますね」とお伝えしました。
1週間後。お母さまには「終わっているよ」と伝えて教室に来たようでしたが、教室で宿題チェックをしてみると、算数の宿題と言葉の意味調べが終わっていませんでした。授業後、教室に残って終わらなかったぶんの宿題に取り組んでいたAくんに理由を問うと、はじめは「妹が…」と人のせいにし、それから「野球が忙しくて…」と言い訳ばかり。大変な思いをしているのはAくんだけではないこと、ましてや宿題ができなかったことをほかの人や習いごとのせいにするのは違うということを改めて伝えました。
そして、お母さまに「宿題終わった」といつも嘘をついてゲームをしていたことについても話をしました。「お母さんが“本当に終わっているの?”って聞かなかったのは、Aのことを信じているからなんだよ」と伝えると、だんだんAくんの瞳がうるんできます。「A、いま、どんな気持ち?」と聞いてみると、「後悔してる…」と声を震わせながら答えました。「お母さんがAに“宿題終わったよ!”って言われてその言葉を信じていたのに、この真っ白なノートを見たらどう思うかな?」「悲しいと思う…」。続けて、「お母さんがお迎えに来たら、ごめんなさいって言いたい」と涙をポロッとこぼしながらつぶやきました。
宿題を終えたAくんを、お母さまは教室の前で待っていらっしゃいました。お母さまの「おかえり」という言葉に、一度下を向き、何かを言いたげなAくん。緊張が伝わる足取りでお母さまのそばに行きます。お母さまもAくんのことをじっと見つめて、彼が話し出すのを待ってくれているようでした。
「宿題が、終わっていないのに…ゲームしたって嘘ついて、ごめんなさい」
ペコッと頭を下げたAくん。
「うん。明日からは宿題も頑張ろうね」
お母さまは怒ることも、声を荒らげることもなく、Aくんの頭をひとなでしました。
二人の姿を見送っていたら、お母さまがAくんの背中をとんとたたいて、頭をなでているのが見えました。多くを語らずとも、そうしたお母さまの行動一つひとつから深い愛情が伝わってきます。
高学年になると宿題が増え、怠け心と葛藤する場面が格段に増えます。宿題忘れなどではなく、その日の授業で取り組むべき問題が終わらず、いわゆる居残りとなってしまった日も、お父さま、お母さまは「遅かったね」ではなく、「頑張ったな」「お疲れ」というようなねぎらいの言葉をかけ、そして肩をポンポンたたくなどのスキンシップをされているのをよく見かけます。そうしたさりげない一言や、触れ合いが子どもたちにとってどれだけ心の支えになっているのか。いつも同じスタンスで、いつも笑顔で帰りを待っていてくれるお父さま、お母さまの存在がどれだけ安心につながっているのか。
遠くなるふたつの背中を見送りながら、親子の絆の尊さを感じています。
花まる学習会 島村有香(2023年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。