つい先日、自宅に小包が届きました。差出人は、小学校のときにお世話になった教頭先生でした。中を開くと溢れるほどのお菓子とともに手紙も添えられており、すぐさまお礼の電話をかけました。毎年、年賀状でのやり取りだけの関係ではありましたが、そのやり取りも数十年経っていることに気がつきました。電話をかけるのも数十年ぶりです。つながるのかという不安のなか、
「もしもし、元気~?」
懐かしい声が耳に飛び込み、一気に緊張がほぐれました。声も口調も私が覚えている当時のまま。お礼とともに近況報告をしたあと、私が小学生だった頃の話に花が咲きました。
教頭先生との出会いは小学3年生のとき。私は引っ越しをきっかけに不登校を経験しました。ただ「怖い」という記憶がいまでも残っています。自分でもどうすることもできず、毎回嗚咽するほど大泣きしました。誰にも理解してもらえないこの感情に寄り添ってくださったのが教頭先生。保健室登校からスタートし、「元気~?」と毎日会いに来てくれました。教頭先生の口癖は「挑戦しないなんてもったいないよ。だめだって思ったらすぐ戻っておいで」でした。その言葉に背中を押され、教室登校ができるようになったのは5年生の3月頃。2年以上も、教頭先生に支え続けてもらいました。
「子どもたちも人間だから、合う合わないがあるよね。子どもたちが自分で見て、かかわり方を決めることが一番大事。先生も迷うこともあったしよかったのかなぁ~なんて思っていたけれども、こうして話が出できて嬉しいし、あなたならできるって思ってたよ。信じてよかった~!」
そう教頭先生は笑いながら話してくださいました。当時の優しい声がまた私を包み、涙が溢れました。
先日、突然着信がありました。
「先生、こんにちは!元気ですか?」
それは、以前通ってくれていた当時4年生のAちゃんでした。
「先生に言わなきゃと思っていたことがあるねん。やっとかけられた~…先生…合格したのー!」
…え?と一瞬、私の時が止まりました。
「先生、ご・う・か・く!」
Aちゃんは笑って話していましたが、当時の彼女からは想像できない言葉でした。
2年前のAちゃんは、算数に苦手意識があり宿題にも手をつけられず、毎週のように居残りをしていました。毎週1時間の居残りは当たり前。3時間近くも残って格闘することもありました。
「先生、あのとき、自分で決めてよかったと思ったよ。新しい塾は厳しいからいやだなって思うこともあったけどね」
彼女は電話越しに話をしてくれました。“あのとき”の出来事を昨日のことのように思い出します。
いつものように一緒に算数を解いていたときでした。Aちゃんの瞳に、大きな涙が突然たまり出したのです。
「…先生と一緒にいたら、私は甘えてしまう。勉強ができるようになりたい。もっと厳しいところで勉強してみたい!…でも先生と離れるのもやっていけるかも不安」
と言ったのです。突然のことに私は驚きましたがその後もAちゃんの話を聞き、彼女の背中を押すべきかどうか本当に悩みました。苦手意識があるなかで厳しい世界に飛び込んでしまったら、心が折れてしまうのではないか。このまま甘えさせてしまうことは彼女の未来を潰してしまうのではないか…葛藤が起こりました。彼女の強い意志を信じ、「自分で決めた道を行ってごらん。大丈夫。うまくいかなかったらまた戻っておいで」と伝え、送り出しました。
「先生と離れるのは怖かったけれど、頑張ってよかった。私が行く学校はダンスの専門コースがあるんだよ。ダンスがしたくて行くんだ」
「Aだったらできるって思っていたよ。おめでとう」
と、本当はあのとき後悔していましたが、信じていたことは嘘ではなかったのでAちゃんにそう声をかけました。
「先生、ありがとう!信じてくれて」
予想外の言葉に私は目頭がとても熱くなりました。
信じ続けることの大切さ、そして見守ってくれる人、寄り添ってくれる人の大切さを教頭先生とAちゃんから学ばせてもらいました。教頭先生と同じ言葉をかけていることにも気づかされました。
これからも子どもたちが決めた道を信じ続けることのできる教室長になってまいります。
花まる学習会 吉田いつむ(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。