私は茨城県の東海村という海沿いの小さな街で育ちました。男3人兄弟ということもあり、家では兄弟とのいざこざが絶えなかったり、外では毎日汚れるような遊びをしたり、木登りで枝に服をひっかけ服を破いて帰ってきたりと、やんちゃな幼少期を過ごしていました。
そんな私ですが、5歳の頃から高校3年生までの13年間、空手を習っていました。私の両親は私たち兄弟に「精神的に強い子どもに育ってほしい」と空手を習わせてくれました。練習は道場の雑巾がけからはじまり、基本動作、組手、形(かた)と続いていきます。私は、小学3年生くらいまで、雑巾がけと組手がいやで、空手が好きではありませんでした。
いやいやとやっていたなかで心情に変化が起きたのは、小学4年生の秋。段審査に合格して黒帯を獲得したのです。空手には級位と段位があります。団体によって異なりますが、入門すると無級からはじまります。昇級審査を受けることで、十級から一級へと級位が上がっていきます。一級になると昇段審査への権利が与えられ、合格すると初段の資格と黒帯を得ます。級から段へと変わり、黒帯を身に着ける特別感のようなものから、ふつふつとやる気が出てきました。特に、以前から好きだった形という、個人で各種の技を決まった手順で行う演武への熱量が高くなっていきました。師範のご厚意により、練習終了後にも形を重点的に見ていただいていました。同じ形を何度も練習した結果、小学生最後の大会で全国大会に出場することができました。全国大会の結果は一回戦負けでしたが、黒帯をとったことがきっかけで、気持ちと行動に変化が生まれました。
長い空手人生のなかで、師範からよく言われていた言葉があります。それは「人に弱さを見せるな」です。空手をやめるまで、人前で泣くことが「弱さ」だと思っていました。
幼少期は、練習中に叱られたり、突きや蹴りが少し当たったりしただけで泣いてしまい、そのたびにまた叱られていました。強くなるために泣かないと心に誓い練習に励みました。
最後の練習後、師範と入門したての頃の話や昇段審査に合格した話など、さまざまな話をしました。最後には「これからもがんばれよ」と背中を押していただきました。これまでのことを思い出しながらその言葉を聞き、さまざまな感情が混ざり最後の最後に涙を流してしまいました。最後にまた叱られるのかと思っていましたが、やさしく微笑んで「強くなったな」と言葉をかけてくださいました。そのときは泣くことが弱さと思っていた私には意味が理解できませんでしたが、一つ感じたのは、涙を流すことが弱さではなかったということです。
月日が経ち、テレビで流れていた東京オリンピックの空手を見ていたとき、ふと「強くなったな」という師範の言葉が脳裏に浮かび、改めてその意味について考えてみました。幼少期の私の行動にフォーカスを当ててどうだったかを思い返してみました。泣いていたときはいつもその場から逃げようとしていたことを思い出し、弱さとは泣くことではなくものごとに立ち向かわないことだと一つの答えを出しました。それが正解かは定かではないのですが、これからの人生において、大切なことの一つだと感じます。
13年間続けた空手で学んだ「きっかけひとつで変われること」「どんな困難にも挑み続けること」の二つは、いまでも自分の心に持ち続けています。
花まる学習会 加藤渉(2023年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。