新年度が始まっておよそ1か月。いままでと同じ環境でスタートした方もいれば、新しい環境でスタートした方もいることでしょう。毎年この時期になると、私は6年生Rくんのことをふと思い出します。
Rくんと初めて出会ったのは、彼が小学2年生のときです。当時のRくんはなかなか小学校へ行けない、いわゆる不登校の状態でした。Rくんのお母さまは「花まるで自信をつけてほしい」と言っていましたが、その想いとは裏腹にRくんはなかなか教室へ入ることができません。そこでお母さまと相談し、「教室後方でお母さま(お父さま)と一緒に授業参加」というスタイルで花まるをスタートしました。最初はお母さまにくっついてブロック遊びしかしなかった彼ですが、次第にそのほかの課題にも取り組むようになりました。そのうちにお母さまがいなくても一人で教室へ入れるようになりました。集団での活動にも加わるようになり、そこで自分の意見を発表するようにもなりました。
もちろんここへ至るまでの過程はこちらが一方的に決めたわけではありません。お母さまと私で密に相談し、それをもとに「こうしてみない?」とRくんに提案しますが、あくまでも彼の気持ちが最優先です。「いやだ」と言えば、無理強いはしません。「○○なら〜」と言えば、可能な限り希望に沿える対応を。ときには1歩下がることもありましたが、1歩ずつ、本当に1歩ずつ、ともに前へ進んできました。
教室での変化は、Rくんの日常にも変化をもたらします。不登校だった彼が週に数回お母さまに付き添ってもらい学校へ行けるようになりました。そのうちに登校班で学校へ行けるようになりました。引っ越しによる転校を経験しましたが、転校先の学校へも自分の足で通えるようになりました。
花まるや日常での変化、成長が目に見えるようになったRくんも小学4年生になりました。ある日、「いつも通り1人で」教室へ来たRくんが私に声をかけてきました。
「おれ、受験したいって思うんだ」
それと時を同じくして、お母さまからも「Rが受験をしたがっている」と連絡が。そうなればすぐにRくん、お母さま、お父さま、私とで四者面談です。想いを聞いたり、進学塾部門であるスクールFCの体験、移動の相談をしたりするなかで、前向きながらもあと一歩が踏み出せない彼の葛藤も見えてきました。
「受験はしたい。でも花まるの先生や友達と離れるのは寂しい…」
受験に対しては前向きなのになかなか「スクールFCへ行く」とは言わなかったRくん。その理由は仲間と離れることに対する寂しさからだったのです。「そっか…確かに寂しいな。それは先生も同じ。でも受験をするってなれば絶対に花まるよりFCがおすすめ。ただどうするかはRが決めること。おうちの人や先生がいろいろ話しているけれど、最後に決めるのはRだから。Rが決めたことに対して先生たちはどうこう言うことはしないよ」と彼に伝えました。
「…FCに行く」
このやり取りから1年半。Rくんはいまも中学受験に向けてスクールFCで勉学に励んでいます。そしてお母さまから近況報告をいただきつつ、スクールFCへやって来る彼を探して「R、がんばってるか?」と声をかけにいくのが私の日課になっています。
花まる学習会 青山裕介(2023年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。