【花まるコラム】『真似て真似られて』田中理紗子

【花まるコラム】『真似て真似られて』田中理紗子

 今年度最後の特別授業、思考実験大会を小学生コースで開催しました。そのなかに「言葉をつなげてお話名人」というゲームがありました。このゲームでは、選ばれた2つの単語を使って文章を作っていきます。単語はランダムに選ばれるため、『ひまわり』と『団子』のように関係性のない2つが選ばれることもあります。「ひまわりが団子を食べる」のような支離滅裂な文章や「ひまわりと団子が突然爆発した」のようにどんな単語を入れても成り立つ文章はなしとし、あり得そうな事柄で文章を考えていきました。

 ゲーム中に子どもたちから出てくるアイデアは「さすが!」の一言。「セロテープ」と「ひまわり」が選ばれたときには「セロテープでひまわりを貼った」「ひまわり柄のセロテープ」など、誰もが聞いてイメージできる文章が次々に発表されました。そんな子どもたちのなかでも、一切関係性がないと感じる単語のときほど目を輝かせる3年生の男の子がいました。その子は「ひまわり組さんがセロテープを工作に使っている」と発表しました。それを聞いたみんなからは、口々に「あ〜!なるほど!」と得心したような言葉がこぼれました。まさかひまわりから花ではなく教室名を連想するとは思わず、私にとってもそのアイデアは目から鱗でした。
 「かさ」と「だんご」が選ばれたとき、1年生の男の子が「かさ組さんがだんごを食べている」と発表しました。それを聞いた瞬間、先ほどの3年生の子がハッとした表情で1年生の子のほうを振り向きました。特に言葉を発することはありませんでしたが、嬉しそうな顔ではありませんでした。そこで私は「さっきのアイデアを真似っこしてみたんだね!」とみんなに聞こえる声で話しました。「自分にない考え方を吸収するって大切なことだね!それに、すごいって思わないと真似しようと思わないだろうから、そんなアイデアが出せることもすごいよね!」と2人と順に目を合わせながら話すと、2人ともどこか誇らしげな表情をしていました。

 子ども同士で遊んでいるときに自分と似たような言動をされると、「真似しないで!」と怒っている子どもを時折見かけます。誰かの真似をすることは悪いことなのでしょうか。私は真似ることは学びの一つだと考えています。幼児が大人の真似をしながらできることを増やしていくように、いくつになっても誰かを真似てできることを増やしていくことは大切な学びです。誰かの考え方や行動に対して「すごい!」と感じるのは、それは自分にはないもの・足りないものだからではないでしょうか。「すごい!」を真似て当たり前にできるようになったとき、前の自分よりひとまわり成長できるのではないかと思います。真似をすることは悪いことではなく、貪欲に学ぼうとしている証。さらなる成長にわくわくを感じられるように。真似されるということは、自分らしさが存分に発揮できた証拠。真似されたことに対する怒りではなく、それだけすごいところを見せられたのだと誇りに思えるように。そんな私の思いが少しでも子どもたちに伝わり、お互いに影響を与えながら成長していくことのできる教室になるよう、これからも子どもたちに向き合い続けます。

 

花まる学習会 田中理紗子(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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