【花まるコラム】『大切な記憶とともに』西山由乃

【花まるコラム】『大切な記憶とともに』西山由乃

 2023年11月8日火曜日。空を見上げる人が多かったこの日、442年ぶりに皆既月食と惑星食(天王星食)が同時に起こりました。次に皆既月食と惑星食が同時に見られるのは、322年後の土星食とのことです。
 高学年授業中、子どもたちと空を見上げました。4年生から6年生の男の子たちが1つの窓に集まり、「月が欠けている!」「すごい!」と大興奮。ぎゅっと集まって上を向く後ろ姿はなんともかわいらしく、皆既月食と一緒に目に焼き付けました。それからも、やるべきことに区切りがつくたびに窓の近くへ行き、少しずつ隠れていく月の様子をじっと観察していた子どもたち。「今日生まれた子は一生見られないから、この時代に子どもでいられてよかったー!」。忘れられない歴史的な日となりました。
 私自身、空が好きで子どもたちとよく空の話をします。夏至の日と授業が重なったときには、「今日は一年でいちばん昼が長い日だよ」と話したり、最近では「オリオン座が見える季節になったね」と冬が近づいていることを話したり。年を重ねるにつれ空を通して季節の変化を感じることが増えてきました。

 思い返してみれば、子どもの頃から空が好きでした。祖父が営んでいたキャンプ場で、夏休みのほとんどを過ごしていた小学生時代。青く澄んだ空にときどき見える白い雲、雨が降る前の少し薄暗くなる空。そんな空を見ながら日々を送っていました。
 ある日の夜、キャンプファイヤーの火を囲みながらイスに座って見た、視界いっぱいに広がる星空。その光景をいまでも鮮明に覚えています。買ってもらった星座図鑑と空を見比べながら「あれがはくちょう座かな?」と必死に探すと、近くにいる親戚の大人たちが「どれどれ?」と私の説明を聞きながら一緒に星空を見上げてくれる時間が大好きでした。久しぶりにそのときの星座図鑑を開いてみると「夏の大三角形」に赤ペンで線が引かれているのを見つけ、星空に夢中になっていた小学生時代を思い出しました。
 母が運転する車に乗って見に行った初日の出。新潟県で見た、海に沈んでいく夕日。運動会の日の空気の澄んだ青空。大雨が降った卒業式。いくつもの記憶とその日に見た空が結びついています。

 今年、サマースクールに行ったときのことです。ちょうど陽が沈み始めた頃にキャンプファイヤーの会場に到着しバスを降りると、空がきれいなピンク色に染まっていました。まるで私たちを包み込むような柔らかくてあたたかいピンクのグラデーション。すぐに班の子どもたちに声をかけ、みんなで空を見上げました。それまで元気に走り回っていた男の子たちも空の美しさに気づいた瞬間、動きを止めて空の色に釘付けになったのです。1年生のTくんは「あそこはピンク! あっちは紫! あそこは赤だ!」と見える色の多さを声に出して確認。Yくんも「この景色、お母さんに見せたい、絶対忘れない」とそれぞれが記憶に焼き付けようと必死に目を凝らして空を見つめていました。少し時間が経つと空の色は変わり、だんだんと暗くなっていきます。「さっきまであんなにピンクだったのに、もう濃い紫になっちゃったね」と寂しそうな子もいましたが、私はきっとピンク色の空を見つけるたびに子どもたちがこのときのことを思い出してくれるのではないだろうかと嬉しくなりました。

 大切な記憶とそのときに見た景色は紐づけられるものです。同じような景色に出合ったとき、その記憶が鮮明に呼び起こされます。いまの季節は夕焼けがとてもきれいです。夜には澄んだ空にたくさんの星が輝いています。ぜひ、お休みの日には家族で空を見上げてみてください。その景色は子どもたちの記憶に残り続けるはずです。

花まる学習会 西山由乃(2023年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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