【花まるコラム】『それはダメなことですか?』臼杵允彦

【花まるコラム】『それはダメなことですか?』臼杵允彦

 「小学生の頃、先生が厳しくてなかなか意見を言えませんでした。実は、それがいまも尾を引いており、自分の考えを表現することに抵抗があります」先日、大学生Aさんがこんな話を打ち明けてくれました。私は心苦しくなりました。その一方で、そんな胸の内を話せるAさんは素晴らしいと思い、私が感じているAさんの魅力を伝えました。表情がだんだん変わっていくAさんを見て、Bちゃんの顔が思い浮かびました。

 Bちゃんは、4年前、私の教室に入会してきた6年生。お母さんは「Bには自信をもってほしい」とおっしゃっていました。初めて会ったときに受けたのは、とにかく大人しいという印象。初回授業は、国語・算数と順調に進んでいました。ただ、算数の間違えた問題を解き直しする場面で、Bちゃんの表情が一変したのです。鉛筆が止まり、ポロポロと流れる涙。横につきいろいろと声をかけ、なんとか正解できました。授業後、お母さんに電話し、Bちゃんの涙の背景を聞いてみました。すると、「1年生の頃の担任の先生が厳しくて、いまも、間違えることへの怖さと自信のなさがあるみたいです」と教えてくださいました。そこで私にできることはないかと考え、お母さんに「Bちゃんの好きなことは何ですか?」と聞いてみました。「読書ですかね…」そこで、教室でやっている読書ラリーについてお伝えしました。すると、「じゃあ、連絡帳に読んだページ数を次回書いてきますね!」とお母さん。

 翌週、私は、教室の元気な男の子たちに「Bちゃんの読書ラリーを発表するから盛り上げてね!」とお願いしました。クラスのみんなから大々的に表彰されたBちゃん。その日から様子が変わり、さらなる本の虫になっていきました。次の週、一週間で千ページ以上も読んできて、また表彰。ついには、ライフスタイルさえも変わっていきました。お母さんよりも早起きするようになったそうです。その理由は、やはり読書。なんと朝にすべての宿題を終わらせて、学校から帰ってくると、おばあちゃんの家に行き、「本を買って」とお願いするのが日課になっていったのです。

 Bちゃんの読書ラリー表彰はすっかり恒例となりました。そして、仲間や先生の前で、Bちゃんは「わからない」と言えるようになっていったのです。やがて間違えることを恐れなくなったBちゃんは、学校でも成績が良くなり、算数のクラスも上がりました。

 変化は、それだけではありません。体育祭の応援団に立候補し、見事に務め上げたのです。さらに、代表委員にもなり、挨拶活動も毎朝続けていました。気づけば、まわりの元気な男の子たちとも、自分からコミュニケーションをとるようになっていったそうです。

 三学期の花まる最後の授業日。Bちゃんは、「私の夢」という題名で作文を書きました。そこには、力強い字でこう書かれてありました。

「将来、私は絶対に花まるの先生になります。」

 あれから早4年。先日、Bちゃんのお母さんと久々にお話ししました。見事、行きたい高校に入学したBちゃんは目標である大学進学に向けて頑張っています。Bちゃんがどんな進路を選ぼうが100%応援すると決めている私ですが、一緒に働ける日がくるかもしれないというのは、大きな楽しみです。

 子どもたちは、大きくなるまでに何人の大人と信頼関係を築けるのでしょうか? その人数が多い子は稀です。だからこそ、どんな大人と出会うかが大切です。その大人の一人として、子どもたちがもつ未来の可能性を伸ばしたい。そんな想いで、私は花まるの先生をやっています。人は一生学び続けます。子どもたちには、自分の間違いにOKを出せる人になってほしい。それがダメなことではないと知った途端、可能性という芽から実に色とりどりの花が咲き始めることでしょう。そのために、これからも子どもたちと向き合ってまいります。

花まる学習会 臼杵允彦(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

花まるコラムカテゴリの最新記事