【花まるコラム】『本気侍』桂田拓弥

【花まるコラム】『本気侍』桂田拓弥

 夏休みが終わり、2学期が始まりました。夏休みはいかがお過ごしでしたでしょうか。私はサマースクールで楽しい夏休みを過ごしました。親元を離れて毎日さまざまなことに挑戦する子どもたち。自身の力で乗り越えた経験が、子どもたちを大きく成長させます。教室にも、サマースクールから帰ってきた子どもたちがたくさんいます。

 その一人、4年生のSくん。彼は「サムライの国」というコースに参加しました。仲間と協力して敵陣へ攻め込み、敵の総大将を打ち倒すことができれば勝利です。戦いのなかで、体につけた紙風船が割られると負けとなります。みんな自分の紙風船を守りながら相手を討とうと試行錯誤するのです。
 初めてのサマースクールに参加したSくん。出発したばかりの彼は、どこか冷めた表情をしていました。まわりの子どもたちが初めての合戦を目前に、どのように戦うか、どうすれば勝てるのかを考えているのに対して、彼は「それなりに戦えたらいいや」と話していました。

 そして始まった合戦初日。同じ宿の仲間と力を合わせて戦います。一進一退の攻防を経て、Sくんのチームは初めての戦いに何とか勝利しました。しかし、彼の表情に笑顔はありません。それもそのはず、チームで勝利を得たものの、彼自身は合戦開始からすぐに紙風船を割られてしまっていたのです。なぜすぐに負けてしまったのか。彼曰く「こんなにも本気の戦いだとは思っていなかった」とのこと。Sくんが想像していたサムライ合戦は遊び感覚での戦いであり、「ゆるい感じのスポーツ」と表現していました。しかし合戦が始まれば、子どもたちの目つきは一瞬にして変わります。勝利を得ようと本気で向かってくる相手軍の子どもたちを目の前にして彼はひるんでしまい、結果何もできずに紙風船を割られてしまったのです。初日の合戦を勝利で終え、子どもたちは宿へ向かうバス内で喜び合い、自分がどのような活躍をしたのか語りあっていました。そのなかでSくんだけは、仲間との喜びを分かち合えず、一人悔しそうな表情を見せていました。

 翌朝、Sくんの顔つきは大きく変わっていました。勝負の場へ向かう前から仲間とともに勝つための作戦を考え、会場では戦い方のうまい子の動きを真似しようと観察し始めたのです。もはやSくんの頭のなかに「それなりに戦う」などという考えはありません。彼も本気で戦うサムライに変わったのです。
 その後の合戦では、気持ちで負けまいと声を出しながら相手に立ち向かっていったSくん。動きも気合も一日目とはまったく違います。そして激闘の結果、見事相手軍を打ち倒し勝利しました。Sくんも真剣勝負の末に最後まで生き残ることができ、仲間と一緒に勝利の雄叫びをあげていました。敗北と勝利のどちらも味わい、本気で勝利を掴むことの喜びを学んだSくん。たった二日の戦いが、彼を大きく成長させました。

 今年の夏休みも、いつもと違う体験を通して子どもたちは成長していることでしょう。どのような経験を味わい、人間的に大きく成長しているのか。普段は教室の外での成長を見る機会があまりありません。今夏、野外体験を通してその瞬間に立ち会えたことは私にとっても嬉しいできごとでした。

花まる学習会 桂田拓弥(2023年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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