先日、1年生のAちゃんが体験授業に来ました。教室に入ってくると、自ら私に「こんにちは!」と挨拶をしてくれました。その表情からは緊張よりも「ワクワク」がうかがえ、授業も笑顔で受けていました。
しかし、授業が終わるそのときです。Aちゃんの様子が一変しました。顔を真っ赤にしていまにも泣き出しそうなのです。私が数分の間、うしろで授業を見学されていたお母さんとお話しして戻ってきたときのことでした。「おや、どうしたんだ! 顔が真っ赤ではないか!」と心のなかで焦りましたが、その理由はすぐにわかりました。キューブキューブの「箱しまい」が、なかなかできなかったのです。( キューブキューブとは低学年クラスで使用する積み木の教具で、形の異なるピースを直方体型の箱にすべてしまうのが「箱しまい」です。)
授業終盤に、「たくさん頭を使った〜!」とちょっとお疲れモードだったので、よかれと思って「このキューブキューブを、箱にしまってごらん」と私がすすめたのでした。授業が終わる時間が迫っていたため、一度、挨拶をします。
「ありがとうございました。さようなら」
そう言ってほかのみんなが帰ろうと立ち上がった瞬間、
「うあああああ〜ん」
教室に大きな泣き声が響き渡りました。ついに涙が溢れ出しました。
「悔しかったね」「よく頑張ったね」「できなくても大丈夫だよ」私がかけられる言葉はたくさんあります。Aちゃんのもとへ行こうとしたところ、3年生のJくんが「え、どうしたの?」と勢いよく私の前を横切りました。それにつられるようにして、3年生のBちゃん、2年生のHちゃんもAちゃんの机のまわりを囲みました。3人とも「どうしたの?」と尋ねても、返答が得られないとわかると「どうして泣いているの?」と、私に目で訴えかけてきました。
「キューブキューブの箱しまいを頑張ったんだよね」とその子に伝えると、悔しさが倍増したようで、さらに大きな声をあげながら涙を落とします。その様子を見て、Jくんが「え! もうこんなに箱のなかにしまえたの? すごいじゃん! ぼくはこんなにできなかったよ。初めてのときはね、本当にできないよ!ここまでできたの、本当にすごいよ!」と言いました。
わあ、なんて素敵な励ましなのだろう、と私まで泣きそうになりました。「しまえなかったピース」よりも「こんなにしまえたの?」とできたことに注目し、それを認める姿に、胸が熱くなりました。花まるでは、そのような声かけが当たり前に飛び交うので、Jくんも自然とできるようになったのかもしれません。
また、人の泣き声を聞いて「どうしたのだろう?」「何かあったのかな?」と瞬時に反応し、その子に寄り添える子どもたちを見て、「優しさ」の新たな一面を知れた気がしました。「優しさ」とは、思考よりも先に出る「行動」のことなのかもれないなあと。Jくんは「泣いている子がいる」と気づいた瞬間に「びゅん!」と私の前を光の速さで通りすぎ、Aちゃんの横にいたのです。考えるよりも先に届けられる「優しさ」は、いつもそっと誰かの心に、あたたかい風を吹かせている気がします。
キューブキューブがしまえずに涙をこぼしていたAちゃんは、Jくんの言葉を聞いてひくひくしながら、残りのピースに手を伸ばしました。
花まる学習会 生駒春佳(2022年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。