【花まるコラム】『自分で決める』奥西裕希

【花まるコラム】『自分で決める』奥西裕希

 今年もサマースクールに参加してきました。全部で6コースに参加し、気がつくと肌が真っ黒に。夏を駆け抜けたサマースクール、「秘密基地作りの国」というコースでのできごとです。

 1日目の夜、1年生のIくんが就寝時に私のところへ駆け寄ってきました。「ねぇ。今日はオムツ、はく?」。Iくんは宿泊を伴う行事では緊張からおねしょをすることがあると、お母さんから聞いていました。その際に「オムツをはくかどうかは寝る際に本人に聞いてください。本人に任せます」と言われたので「どうする?」と聞くと、下を向くIくん。そして、私のほうを見て「どうしよう」と訴えかけてきました。話を聞いてみると普段はお母さんが決めているそうで、自分で決めきれず、私に答えを求めていました。それでも私は「リーダーは決められないよ。自分で選んでいいよ。おねしょしても大丈夫」と伝えました。すると、30秒ほど黙り込み「はかない」と答えました。たくさん考えて自分で出したIくんの答えです。

 2日目の朝、「やっちゃった」と私のところへ来たIくん。1日目はうまくいきませんでした。すぐに替えの洋服を持ちそっと部屋の外で着替えました。涙ぐむIくん。「大丈夫だよ。自分で決めることができて本当にえらかったね」そう声を掛けました。

 2日目の夜、Iくんに「今日はオムツ、どうする?」と確認すると、迷わず「はく」と言いました。Iくんが決めたことです。「わかった」と伝え、着替えに行きました。しかし、就寝の直前。Iくんが私のもとに来ました。「やっぱりはきたくない」と。理由は「頑張るって決めたから」でした。覚悟を決めた表情で訴えかけてきたIくん。「わかった」と伝え、改めて着替えに行きました。しかし、なんだか不安そうなIくん。背中を曲げ、下を向きながら部屋に戻って行ったので「自分で決めたこと! 大丈夫だよ」そう声をかけました。

 3日目の朝、Iくんはおねしょをしていませんでした。「リーダー、大丈夫だったよ」と朝一で私のところに来て、グータッチ。嬉しさがこみあげてきたのでしょう、Iくんはその場でジャンプをしていました。最終日にはサマースクールでの思い出をリーダーと振り返ります。そこでIくんはこんなことを言っていました。「いっぱい頑張ったよ。いっぱい! いっぱい!」具体的な言葉ではありませんでしたが、Iくんの表情は言葉では表しきれない達成感に満ち溢れていました。サマースクールで何か一つ頑張った、挑戦した。それだけでも子どもたちとっては自信になります。たえそれが言葉に表せなかったとしても。

 教室でも子どもたちには「自分で決める」ことの大切さを伝え続けています。宿題を忘れたときには、「次に忘れないようにどうしたらよいのか」を子どもたちに問います。「絶対にやってくる」や「朝起きたらやる」などどんな些細なことでもいいのです。大事なのは自分で決めること、自分で選択すること。レールを建設するのは子どもたち。自分の人生のレールです。大人に決めてもらうのではなく、子どもたちが選択し、建設していくこと。失敗してもいい。失敗したらまた新しく作り直す。大人は子どもたちの建設に足りないものを足していく。そんな存在だと思っています。その繰り返しが、のちの自分のやりたいこと、夢へとつながっていくことでしょう。

花まる学習会 奥西裕希(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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