【花まるコラム】『少しずつ』川岡未歩

【花まるコラム】『少しずつ』川岡未歩

 年中Aくんとの出会いから、ある経験を思い出しました。私は高校生のとき、小さな頃から憧れを抱いていた吹奏楽部に入部しました。高校生から始めたため、ほかの部員とは大きな実力の差がありました。まわりと比べてできない自分に落ち込む毎日。「もっとうまくなりたい」「コンクールに出たい」その一心で練習を重ねました。
 しかし、まわりとの差はどんどん大きくなっていくばかり…。心のなかは悔しさと焦りでいっぱいでした。ならば、「人の倍努力をしよう」「アドバイスを吸収して自分のものにしよう」と、誰よりも早く登校して練習し、帰りも一番遅くまで残って練習をしました。また先輩や顧問の先生からいただいたアドバイスはすべて記録し、実践。家に帰っても頭のなかは吹奏楽のことでいっぱいでした。
 高校二年生の夏休みのこと。私が空き教室で練習をしていると、顧問の先生が教室に入ってきてふと、「綺麗な音になったね」とほめてくださいました。吹奏楽部に入部してから、初めて認めてもらえた瞬間でした。そして高校三年生のときにはコンクールメンバーとして、コンクールに出場することができました。嬉しくて嬉しくて、家に帰ってすぐ母に報告したことを覚えています。憧れの舞台で演奏できたあの瞬間はいまでも忘れられません。そんな経験をしたからこそ、一つひとつ吸収していけばゆっくりでも確実に成長をしていくことができると確信しています。

 ある日の年中クラス、思考実験の時間に、紙飛行機を作って誰が一番遠くまで飛ばすことができるか競争をしていました。Aくんは、まずは「飛ばしてみよう」とリズムをつけて投げてみるも、遠くに飛ばず紙飛行機は近くに落ちました。それでもAくんは諦めずに「もう一回!」と挑戦。それでもあまり遠くまで飛びません。「少し上に向かって投げるとよく飛ぶよ」とアドバイスをもらうと、「1、2、3!」と少し上に向かって投げました。強く投げた一回目は、Aくんの足元に落ちました。二回目は、「優しく投げてごらん」という言葉に、優しくそっと投げました。すると、ふわっと上に紙飛行機が飛びました。しかし、まだ遠くまで飛びません。三回目、大人の手本の動きをじーっと見つめて、まねをしながら投げたAくん。「さっきよりも遠くに飛んでいったね」と言われ、嬉しそうに頷きました。アドバイスを吸収し「もっともっと投げてみる!」と何度も挑戦することで、Aくんの紙飛行機はどんどん遠くまで飛ぶようになっていきました。

 何度も何度も諦めずに挑戦すること、アドバイスを吸収して行動に移すことで、誰しも必ず成長していくことができます。なかなか成功しないときもあるかもしれません。しかし、ゆっくりでも少しずつ、芽は伸び、やがて花を咲かせます。
 教室の子どもたちが成長した瞬間を見逃さず、「よくできたね」「がんばったね」「前よりもできるようになったね」と声をかけられるように、子どもたちの隣で見守り続けてまいります。

花まる学習会 川岡未歩(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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