【花まるコラム】『刻まれる言葉』 内海拓也

【花まるコラム】『刻まれる言葉』 内海拓也

 子どもの頃、大人に言われて記憶に残っている言葉はありますか。嬉しかった言葉・傷ついた言葉、人それぞれにあると思います。私が授業をしていて感じることは、子どもたちは嬉しい言葉をパワーの源に大きく成長していくということです。

 先日、こんなことがありました。低学年クラスで扱っている書き写し教材「あさがお」。毎回の授業でも取り組みますが、宿題としても1日1ページ進めます。1年生のIくんは授業中、あさがおの時間が近づくといつもウキウキしています。転写を始めると「あっ、『の』だ! 俺、ママに『の』が上手だねって言われているんだよな~」と笑顔でつぶやき、集中して取り組んでいました。授業後にも「俺、『の』がうまいんだよね」と誇らしげに話していました。

 年中から6年生、すべての子に共通して、自信があることには活き活きと取り組んでいる様子が伺えます。その自信のきっかけになるのが大人の言葉であることも多いのです。

 一方でその反対もあります。これは私が実際に体験したできごとです。中学1年生のときに粘土で落花生を作る授業がありました。得意ではありませんでしたが、楽しみながら作っていました。しかし、できあがった私の作品を見て先生は「内海くん、スパイクを作ってはいけないよ」と言いました。私が当時陸上部だったのでそう見えたのでしょうが、悪気のない先生のその一言をきっかけに、何かを作ることに対して苦手意識を持つようになってしまいました。

 一度かけられた言葉の魔法はなかなか解けません。いまでも絵を描いたり工作をしたりするときにその言葉が頭をよぎることがあります。

 プラスの言葉は自分のなかに積み上がり、知らないうちに自信を育んでくれます。マイナスな言葉は、「自分はそうなんだ」という暗示をかけてしまうことがあります。

 では、苦手意識を克服することはできないのでしょうか。決してそうではないと私は思っています。これまで授業をしていて、最初は苦手だと言っていたことが得意になった子をたくさん見てきました。

 2年生のTくんは、年に3回実施する花まる漢字テストで、70点以上が合格のところ、32点でした。テストを返却すると「俺、漢字は嫌いだから」とふてくされていました。「Tはできるようになるよ。漢字に魔法はないんだから、やればそのぶんだけできるようになるんだよ」と伝え、次回のテストに向けてお母さまと連携しサポートすることにしました。初めはいやいやながらも練習を始めたTくん。そして次のテストでは74点をとり、見事合格。「よっしゃ~!!」と喜ぶTくんにお母さまが「やったじゃん! 頑張った成果が出たね」と優しいまなざしで声をかけました。その言葉でTくんは自信がついたようで、その次のテストでは96点で特待合格(96点以上をとると特待合格です)、さらにその次はとうとうクラスで唯一の100点満点をとりました。級が上がるに連れて難易度も高まるなかでの見事な頑張りでした。その頃にはもう、漢字に苦手意識を抱いていたかつてのTくんの姿はありませんでした。

 すべてがうまくいくとは限りませんが、自分の頑張りが成果として現れ、信頼のできる大人から認められた瞬間、負の魔法が解けることがあります。その瞬間をこれまで数多く見てきました。頑張っている過程を無理に褒める必要はありません。その取り組みを「今日もやったんだね」と認めて声をかけてあげだけでいいのです。

 花まる学習会では子どもたちへの「承認」を大切にし、「私って頑張ったんだな」という小さな自信を積み上げていけるようサポートしています。もしお子さまが「苦手」と悩んでいる分野がありましたら、お気軽にご相談ください。小さな目標を立てながら連携して声をかけていきましょう。

花まる学習会 内海拓也(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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