【花まるコラム】『紙飛行機の先を折る』小泉奈々子

【花まるコラム】『紙飛行機の先を折る』小泉奈々子

 紙飛行機と聞くと、どこか懐かしい響きがしますね。みなさんが最後に紙飛行機を作ったのはいつでしょうか。今月、年中クラスの「思考実験」では、紙飛行機を作る回がありました。「思考実験」とは子どもたちの創造力を育む時間で、年中クラスでは毎回おこなっています。子どもたちにとって、紙を先生と同じように折る、折り目をしっかりつけることは、まだ一筋縄ではいかない作業です。こちらが折り方を見せたあと、「こう?」と言いながらまったく別のところを折っている姿は、愛らしくもあります。今回は、そんな紙飛行機の思考実験に夢中になったBくんの話をご紹介したいと思います。

 年中になったばかりのBくんは、1回目の授業を欠席したため、2回目の授業が初の花まるでした。けれど初めてとは思えないくらいやる気満々で「忘れ物してないかな?」と何度もカバンのなかを確認しては、持ってきたものを一つひとつ説明していました。授業が始まってからは、さらに気分が高まっていきます。

 その気持ちが思考実験「紙飛行機」で最高潮に達したのでしょう。 早く飛ばしたい一心で紙飛行機を手早く折り、「もう飛ばすよ!」と言って席からあっと言う間に立ち上がりました。私が声をかけるよりも早く、Bくんの手から紙飛行機が放たれ、宙に旅立っていました。しかし、勢いでやった結果 、その紙飛行機は人のいる方向へ飛んでしまい、先生の頭にあたりました 。思考実験を楽しむための絶対条件は、怪我をしないこと。それをわかってほしいからこそ、Bくんの目を見て、真剣な表情で伝えました。
「危ないから、人のいるほうには飛ばさないよ」
そう言うと、みるみるしょんぼりするBくん。 みんなが紙飛行機を飛ばす時間になっても「いい!ぼくやんない!」と拗ねていました。
 しかし、切り替えが早いところも、幼児期の子どもたちの良いところです。ほかの子たちが紙飛行機を飛ばしながら「この飛行機、回転しながら飛ぶよ!」「どう飛ばせば遠くまでいくかな…」と実験を楽しんでいるうちに、Bくんは「ぼくもやるー!」と戻ってきました。それからはBくんも一緒に、みんなでアイディアを出し合って、どこまで紙飛行機が飛ぶか、投げ方を研究し、実験を繰り返しました。

 みんなで飛ばしていると、Bくんが「ねえねえ」と私に話しかけてきました。さっきまでの険しい顔は消えて、いまはにっこり笑顔です。彼は紙飛行機を手に、言いました。
「先生、ぼくこうすることにした!」
そこには、先端が折られた紙飛行機が。どうして先を折ったの?と尋ねると、Bくんは自信満々に一言。
「こうすると人に当たっても怪我しないでしょ?」
 思考実験の間、その飛行機を飛ばしながらも「こっちは人がいないから大丈夫」と声を出して安全確認をするBくんでした。

 先端が折られた紙飛行機。それは、彼が注意をされてもやもやとした気持ちを抱えながらも「僕はどうしたらいいのだろう?」と考えてひらめいたアイディアの一つです。Bくんが自分の感情と折り合いをつけた結果でした。

 生活をしていれば、いろいろなルールに出合います。家のルール、教室のルール、社会のルール。間違っていることを注意されて、怒り出す人もいます。そんななか、Bくんの切り替えの早さ、そして自分の中でどうすべきなのか考えたところには、大人、子ども関係なく人として大切なことだなと感じました 。

 間違いから学び、自分はどうしたいかを考える。子どもたちにもそれを自然とできるようになってほしいと感じた、4月の授業でした。

花まる学習会 小泉奈々子(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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