【花まるコラム】『険しい道は楽しい道!』 渡辺栄治

【花まるコラム】『険しい道は楽しい道!』 渡辺栄治

「先生、わが子の“自分の頭で考える力”はどうすれば身につきますか?」
「私は母親として、何をすればいいですか?」

 多くの方が抱える悩みだと思いますが、どうしても、母親として、父親として何をすればいいのか、この「○○として」というところが子育ての難しさだと思います。

 以下は今夏のサマースクールで4年生女の子が書いた作文です。彼女の作文のなかに子育てにおける心構えのヒントがありました。

「ザザザーゴーゴー」
 すごく流れが強い。片手をはなしたら流される。ロープをつかみながら、上へ上へいき、岩もつかんで上へ上へ。「さすが、リバー探検隊。危険すぎるぅ~」ぶるぶるとても寒い。そのとき友達のSちゃんが言った。

「険しいは楽しい!」

楽しいけれどすごく大変だったから、その言葉を聞いたとき「本当だ!」と思い、それからは、きびしくても、むずかしくてもずっとわたしは「険しい道は楽しい道!」と言っていた。
 わたしは、リバー探検隊でやっとわかった。Sちゃんと険しい川がおしえてくれた。本当に険しい道はとっても楽しいということを。

 私はこの作文を読んだとき、雷にうたれたような衝撃を受けました。
 長く花まるで野外体験をおこなってきて、彼女にその意義、奥深さを教えてもらったのです。同時に、命を削るような野外体験という仕事を子どもたちのためにやってきてよかった、と自分も肯定されたような感動も重なりました。

 教育上、道徳上、先生たち、大人たちは「苦労、大変な経験をしなさい」「みんな協力し合うことが大事」「つらさのなかに喜びがある」なんて言ったりします。そう言っていた自分が少し恥ずかしくなります。言葉だけではなく、実体験で学ぶことがあると実感しました。
 彼女は先生や大人からではなく、「自然の川」「友達」からそれを学んだのです。私は野外体験の意義、奥深さを改めて考えさせられました。

 自然のなかは常に危険ととなり合わせです。特に「リバー探検隊」のコースでは、油断をすれば身体ごと川に流されてしまいます。「友達と協力しなさい」と言わなくても、協力せざるを得ない環境に身をおかれるのです。つまり自分で、もしくは仲間の力を借りてなんとかしないといけない状況にに放り込まれます。みんなが険しい表情になります。さっきまで部屋で喧嘩していた子どもたちが自然に手を取り合い、声をかけ合います。私にはその険しい表情が、つらそうだというよりキラキラと生命が輝いているようにみえます。
 この作文を書いた子は、将来乗り越えなければならない壁ができたときに「険しい道は楽しい道!」という言葉とともに、川の冷たさ、お互い助け合って手を取り合ったときのぬくもり、みんなの「頑張れ~」という声、ゴールに着いたときの爽快感などを身体感覚で思い出すでしょう。

 野外体験がなぜ子どもたちの教育に必要なのか。

 「なんとかしないと」という場でなんとかしようと考えたり感じたりすることが、子どもの頭や心を一番鍛えることになるからだ、と実感した今夏となりました。

 親としてできること、それは「○○として」「○○をさせなければ」という気持ちを手放して、いかに不自由な体験をさせるか、そこに尽きるのではないでしょうか。

 花まる学習会の授業、そして野外体験では、そんな経験ができる場をこれからも提供していきます。

花まる学習会 渡辺栄治(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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