【花まるコラム】『あの人って、かわいそう?』小林千尋

【花まるコラム】『あの人って、かわいそう?』小林千尋

 みなさんは、誰かをかわいそうだと思ったことはありますか。いままで多くの人と出会ってきたなかで、一度や二度はあるのではないでしょうか。私は子どもの頃、「あの子、足遅くてかわいそうだよね」と、悪気なく自分の素直な気持ちを母に話したことがありました。運動は得意だったため、”足が速くない=かわいそう”だと捉えていました。母には「そんなこと言わないの!あの子だって一生懸命やっているでしょ!」と怒られました。「でも、遅いより速いほうがいいに決まってるじゃん…」と思いながらも、かわいそうだと思うことはいけないことのかな、と子ども心に感じました。

 大人になったいま、私は誰かのことをかわいそうだと思うことは、ほとんどなくなりました。そのきっかけは、母の一言にありました。私が家で姉と話していて何気なく「えー、かわいそう」と言ったときでした。

「それって本当にかわいそうなの?あなたはかわいそうだと思っているかもしれないけれど、その人は自分自身のことをかわいそうとは思っていないかもしれないよ。それなのに、誰かがかわいそうと言ってしまうことで、その人が『自分ってかわいそうなんだ』と思い込んでしまうこともあるんだよ。かわいそうな人なんていないんだよ」

 私は本当にその通りだなと思い、言葉が出ませんでした。自分から見たら、かわいそうと思うこともあるかもしれないけれど、その本人は果たして自分のことをかわいそうだと思っているのか…。深く考えることができた時間でした。

 ある小学生クラスでの思考実験大会の時間。問題を解いていくにあたって、正解不正解はつきものです。これは仕方がありません。だからこそ、間違えても挑戦したことを認め、正解することだけが正しいというわけではない、と子どもたちには伝えていました。
 そんななか、3年生のAくんが、
「いえーい!って大きい声で言ったら間違えた人がかわいそうだよ…。だからあんまり大きい声で言わないほうがいいんじゃないかな?」
と私にこっそり伝えてきました。私は、
「そんなことないよ!嬉しいときは全力で喜んでいいんだよ。たとえ間違えたとしても、みんなが全力で頑張ったことに変わりはないからね!」
と伝えました。Aくんは少しだけ納得した表情を見せて、その後は自分らしく全力で楽しんでいました。
 Aくんは、自分のことだけでなくまわりのことも考えられる子です。想いやりや気遣いがあったからこそ、彼からあのような言葉が出たのでしょう。とても優しい心の持ち主だと感じました。

 子どもは、優しさから誰かのことをかわいそうだと思うことがあるかもしれません。まわりを気にする子であれば、自分と相手・まわりを比べて劣っているほうがかわいそう、できないほうがかわいそうなどと思ってしまうこともあるでしょう。しかし、かわいそうと思われている相手は、果たして本当にかわいそうなのか。相手はそのとき何をどう感じているのか。そこまで想像するきっかけさえ与えられれば、感じ方も変わる。昔の私がそうであったように、根本的な考え方が変わることもあるのです。だからこそ私は子どもたちに、相手の個性や価値観を大切にしてほしい、相手のことを深く考えられる人になってほしいと思っています。

花まる学習会  小林千尋(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

花まるコラムカテゴリの最新記事