だんだん日差しが強くなり、額に汗が光る暑い季節になってきましたね。教室では、1年生や新入会の子たちが授業に慣れ、エンジンがかかってきました。高学年コースに進んだ4年生が日々の学習と向き合うことに苦戦しつつも何とかやりきっている様子が見受けられます。
ある日、6年生のTくんが「4年生って本当に大変だよなぁ」とつぶやきました。なぜそう思うのか聞くと、「宿題の量が一気に増えて、全然終わらないんだよ。オレ、終わらなくて泣いたもん! …いまはもう大丈夫だけどね」と、にかっと笑いながら話していました。
Tくんは3年生の途中で入会し、そのまま高学年コースへとあがりました。彼は思っていることが表情にそのまま表れる、とても素直な子です。3~4年生のときは、考えてもわからなかったり何か忘れ物をしたりしたら、唇をギュッと噛みしめ、目には涙をためていました。きっと悔しい想いをしている自分の姿を、ほかの人には見せたくなかったのでしょう。そんなTくんでしたが、最近は涙を見せることは減り、大きな心の変化がありました。
高学年の思考力教材である、Sなぞぺーの解説をしていたときのことです。4年生のSくんがとてもわかりやすく考えた跡を残していたので、私はそれをみんなの前で紹介しました。ほかの子が「おお~!」と遠目に見るなか、Tくんは「先生、近くで見せて!」と言い、教科書を受け取りじっくりと見つめていました。すると、「これいいね!わかりやすい!」とSくんのことを褒めたのです。ほかにも、国語の宿題で取り組んできた映像化課題の絵をみんなで見せ合うと、「おお、いいね! イメージしやすいよ!」と前向きな発言をするなど、「いいね!」がTくんの口癖になりました。その姿を見て、Tくんにほかの人の考えを素直に受け入れ、称賛する心の余裕ができたのだな、と感じました。心が満たされていると、自分の持つ優しさを分け与えられるようになるのです。
Tくんがこのように変わった理由の一つは、「自己肯定感」と「自己効力感」を育まれたからだと感じます。「自己肯定感」とは、自分が存在しているだけで良いと、ありのままの自分を受け入れられることです。そして「自己効力感」とは、見たことや考えたことのない問題に直面したときでも、自分ならできそうだと思えることです。
Tくんはこの3年間で何度も挫けました。本当はわかるようになりたいのに、なかなか上手くいかない。宿題も自分のペースを作れない。しかし、諦めずに一つずつ向き合いました。お母さまは「これでいいのでしょうか…」と不安を抱えつつも、Tくんが帰宅するのを笑顔で迎えていらっしゃったそうです。帰ればいつも通り安心できる家があり、家族がいる。それだけで頑張れる。そのようにして自己肯定感を育み、学びの場として花まるで何度も挫折しては乗り越え、「自分ならできる」という自己効力感を育んできたのでしょう。
人は困難に直面したとき、自分の本領を発揮します。子どものうちはまわりにどうにかしてくれる大人がいるかもしれませんが、大人になったら自立する必要があります。そのために、悔しい想いも失敗する経験もたくさん積んで、心を鍛えていってほしいのです。教室では、特に切り替えが上手な低学年時期にたくさん失敗し、高学年になったらその失敗を乗り越えられるという感覚が持てることを目指します。子どもたちの心に「いいね!」と思える余裕をつくれるよう、今後もサポートしていきます。
花まる学習会 谷田川美冬(2022年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。