【花まるコラム】『ものの見方』泉奈津穂

【花まるコラム】『ものの見方』泉奈津穂

 年長クラスの思考実験「折って切って開く」では、「こんなふうに切ってみようかな!」と迷いなくハサミを入れていく子だけでなく、「どうやって切ればいいんだろう…」と迷いながら、恐るおそるハサミを入れていく子がいます。私が小さかった頃は明らかに後者であったなぁと、子どもたちの姿を見ていて思い出しました。

 ただ単に折り紙を切るのではなく、一度折ってから切る。大人の私ですらどんな形ができあがるのかワクワクしますから、子どもたちのワクワクと驚きは大きいことでしょう。ギザギザに切ったけれど、どんな形になっているのだろう。不安そうに折り紙を開くと、「わぁ!」という表情。「ハートを作るんだ!」とハート形に切って開くと、「あ!ハートがふたつくっついている!!」と新しい発見。一度このワクワクを経験すると、もう手が止まりません。何枚も折り紙をもらっては、次々と折って切って開いていきます。ハサミを入れることが不安そうだった子も、完成した作品を見ると安心したのか、黙々ととハサミを動かし始めました。

 途中、Aくんが私のもとに走ってきました。
A「ねえ、先生見て!」
私「おお!おもしろい形ができあがったね!」
A「そう!クワガタなの!」
私「確かに!そんなふうに見えてきたよ。強そうなクワガタだね!」
A「先生の足が木ね。くっついてるの!」
そう言って、私の足に大きなクワガタをくっつけていました。

 子どもたちとかかわるなかでワクワクする瞬間の1つが、子どもたちの豊かな発想力に触れるときです。折って切って開いて終わりではなく、できあがったものが何に見えるか、自分は何を作り出すことができたのか、そこまで自然と思考をめぐらせることができる子どもたちの心が素晴らしいと感じています。

 このあと、Aくんは私に「クワガタ」をプレゼントしてくれました。大事に育てるねと預かったクワガタですが、この話には続きがあります。
「Aくん、私のところには『日本で一番昔からある家!』と言って持ってきましたよ!」
講師によると、なんとAくんは私にはクワガタと言って持ってきた作品を、ほかの先生には「日本で一番昔からある家」として紹介していたようです。

 この話を聞いた瞬間、素晴らしいなあと思いました。そうか、彼にはクワガタにも見えるし、日本で一番昔からある家にも見えたのか。1つだけでなく、2つの見え方を発見するなんて。

 世の中の作品の多くは、1つの題名がつけられます。私自身、絵やアート作品を見ることが好きで、美術館や個展に足を運ぶこともあるのですが、やはり題名や解説に沿ったイメージを思い起こしたり、作者や作品の登場人物の気持ちに想いを馳せたりします。
 そんな私に新しい気づきをくれたのが、Aくんの発言でした。何か、あるものに見えることを発見してしまうと、それに引っ張られとらわれることが多く、それ以上見つけることが難しくなりますが、もっと幅広く、さまざまな見方があるのだと。そもそも、1つの作品には1つの題名を、という概念すらもったいないのでは、と。

 ものの見方や考え方、価値観は人それぞれ。ですが、子どもたちのほうが、大人よりももっと幅広く純粋な視野をもっているのかもしれません。そんな子どもたちの豊かな発想の芽をつぶしてしまわないような声掛けをすると同時に、子どもたちから多くの感性を学ばせてもらおうと思っています。

花まる学習会  泉奈津穂(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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