今年の夏休み、私はサマースクールのサムライ合戦全国大会に参加してきました。集結したのは、勝ち続けている関東軍、チームワーク抜群の関西軍、親子で一致団結した現地の唐津軍、そして我らが中京軍の4軍。それぞれが全国統一という祈願を胸に、2日間に渡って戦いを繰り広げました。
サムライ合戦は各々が太腿に紙風船を一つつけ、それを刀で割られたら退場となります。またチームに1人ずついる大将の紙風船が割られた時点で軍は敗北となります。自分の紙風船を守り、そして大将も守りながら、敵の大将を討ち取るのです。やはり敵の大将に立ち向かった者、戦略を練って指揮した者、より多くの敵を倒した者に注目が集まります。しかし今回はあえて少し視点を変えて、ある一人の男の子を紹介します。
3年生になったAくんは、今回が初めてのサマースクール、そして初めてのサムライ合戦でした。初日は右も左もわからず緊張した面持ちで合戦場に立っていました。敵の迫力や場の雰囲気に呑まれ「怖い」と呟くこともあり、すっかり腰が引けてしまっている様子。ホテルに戻りチームメイトとの友好を深めたり、翌日の作戦会議をしたりするなかで少しずつ雰囲気を掴んでいったのでしょう。2日目が始まると、一戦一戦を重ねるごとに「一人倒せたよ!」などと話すことが多くなり、攻めに転じることが増えていました。Aくんの闘志が高まってきた頃におこなったある一戦で、中京軍が数人の唐津軍から突撃される場面がありました。中京軍は慌てて大将を中心に守りを固めます。しかしAくんの近くに、数人の敵に囲まれてしまった仲間が1人。さすがに倒されてしまうかと思ったそのとき、Aくんがパッと仲間のもとに駆け寄ったのです。「大丈夫?」と声をかけながら近づいていき、孤立していた仲間の隣に立って敵の侵略を食い止めていました。その場面では相手を倒すことこそできなかったものの、敵を退け二人とも自陣まで戻ってくることができました。
攻め込まれているときに前へ一歩踏み出すにはとてつもなく勇気が必要です。敵に囲まれている仲間の場所へ一人で向かうのですから、自分自身もやられてしまう可能性が大いにあります。不利な状況にあるときほど「倒されたくない」という気持ちが勝って仲間の窮地に気づいていても動けないことが多いですが、まるで助けるのが当たり前かのように動き出したAくんの姿は、本当に格好良く頼もしいものでした。
勢いがあり、体格のいい大人もいる唐津軍。そのような不利な状況で自分を顧みず動ける人が果たしてどのくらいいるでしょうか? 自分の身を守るために私は躊躇してしまうかもしれません。追い込まれた状況では本来の姿が見え隠れします。Aくんのような本心からの勇気や優しさから生まれる行動は、見た者の心をぐっと掴みます。助けられた仲間や近くにいた仲間たちは、彼の姿を見て何を感じたのでしょう。見る者の心を掴む行動をしたのは、Aくんだけではないはずです。そこで生まれた小さな尊敬や憧れの気持ちは、見た人のなかで芽となり新たな道しるべとなるのではないでしょうか。
花まる学習会 田中理紗子(2022年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。