【花まるコラム】『けんかの理由は…』林飛翔

【花まるコラム】『けんかの理由は…』林飛翔

 これまで教室や野外体験で、何度も子ども同士のけんかを見てきました。本人たちはいたって本気で、まじめにというと変ですが、傍から見ると「そんなことで?」と思わず笑ってしまうようなけんかもなかにはあります。これは最近私が見た、少し変わったけんかの話です。

けんかするほどの想い

 今年の4月、神奈川県海老名市にある学童から依頼をいただき、3日連続で漫才ワークショップを開催しました。参加していたのは小学1~5年生。その2日目のことでした。この日は、子ども同士でコンビを組んで、最終日に向けて漫才の台本を作って稽古をしました。
 残り時間もわずかとなってきたときに、部屋の隅のほうで何かもめている気配を感じました。ほかのコンビの漫才へのアドバイスをしていたところだったので、スタッフに任せました。そのあと、ここまでの成果としていくつかのコンビに漫才を発表してもらいました。すると、さきほどのコンビの一人の男の子が泣いていることに気がつきました。理由を聞いてびっくり。
 お互いが「おれのボケのほうがおもしろい! だからおれの考えたボケをやりたい!」といって譲らなかったから。私は「なんて素敵なのだろう」と、感動してしまいました。きっと彼らのこれまでの人生で、自分のほうがおもしろいという理由でけんかになったことは一度もないでしょう。しかも、その目的が見ている人を笑わせるため…。こんなふうに、誰かを笑わせたいと思う人が増えたら…。

本気で悔しがる子どもたち

 花まるの教室でも、同じようなことが起こります。低学年授業での「たこマン」のときです。1コマ目の絵を見て、2コマ目のオチを考えるのですが、残り時間から考えて、「あと発表できる子は3人!」そう伝えたあとの“ぼく・わたしを絶対に当てて!”という視線。まるで目からビームが出ているのかと思うくらいです。
「はい、じゃあAちゃん!」
「あと二人…」
(じーーーっと目からビーム)
「じゃあBくんね!オチオープン!」
「最後の一人は…」
 (かける先生、わたしを選ぶよね?と訴えるビーム)
「う~ん、拍手も姿勢も素敵だった…Cくん!」
(一斉に)「あ~~~~~…!!!!」(全身から残念オーラ)
出ました!「自分が笑わせたかった」現象です。

子どもにとっての笑わせたい相手

 私は漫才ワークショップでも、教室でも子どもたちのちょっとした発言を拾い、笑うことを心がけています。笑いというのは不思議で、“存在そのものを認めてもらえた”という気持ちになります。小学生のとき、私が一番笑わせたかった相手は母親でした。母が笑ってくれるととにかく嬉しい。逆に度が過ぎることをして、母が笑ってくれないときには「このラインを超えるとウケないんだ」と小学2年生ながらに分析していました。そして4年生で授業中、先生に叱られたときも「同じボケを繰り返しすぎたな…」と反省。学校で一番おもしろい先生に叱られたことがショックでいまでも記憶に残っています。

 誰かを笑わせたい。誰かに笑っていてほしい。それは何も大声を出して笑わせるというだけではありません。公園で遊んでいて、ふと目が合ったときのちょっとしたほほえみだけでも嬉しい。
 おもしろい友達や、先生を笑わせたい。そして子どもが一番に笑わせたいのはやっぱり、ご両親ではないでしょうか。

 教室で心がけていることがもう一つあります。子どもたちを叱るような場面で、すぐに叱るのではなく、常に「叱るほどのことかどうか」を自問自答すること。子どもたちが何かしたときに「いまのって実は笑わせようとしたんじゃないか?おもしろいことだったんじゃないか?」と。余裕がないときこそ、笑って過ごしたいものです。

花まる学習会 林飛翔(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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