【おはなしのキッチン⓫】『はれときどきぶた』平沼純 2023年5月

【おはなしのキッチン⓫】『はれときどきぶた』平沼純 2023年5月

 初版以来40年以上にわたって、日本のみならず海外でも翻訳されてベストセラーとなっている『はれときどきぶた』、通称「はれぶた」シリーズ。とにかく破天荒で奇想天外なストーリー展開。主人公の小学3年生、畠山則安の周りで起こるハチャメチャな出来事の数々は、世代をこえて多くの子どもたちの心をつかんできました。
 第一巻の『はれときどきぶた』では、則安がこっそりつけていた日記を母さんに読まれてしまい、仕返しのために嘘だらけの「あしたの日記」をつけ始めます。ところが、日記に書いたことが次々と現実になり、則安は混乱します。家のトイレに大きなヘビが現れたり、金魚が空を飛んでアカンベーをしたり、挙げ句の果てには空から大量のぶたが降ってきたり……。

 そんな出来事のなかでとりわけ大きなインパクトを与えるのが、母さんが作る「えんぴつの天ぷら」のエピソードです。則安が日記に書いた通り、次の日の夕食には母さんが平然とえんぴつを天ぷらにして食卓に出して……。

 父さんは、ばりばり音をたてながら、えんぴつの天ぷらを、うまそうに食べた。
「やっぱり、HBから、3Bくらいが、やわらかくて、うまいな。
 こんどは、色えんぴつを食べたいな。
 ねえ、母さん」
「そうねえ、則ちゃん、もも色と、きみどりを持ってきなさいよ。空色も、おいしいかもしれないわね」
 むちゃくちゃだ。
 だいじな色えんぴつを、天ぷらにされて、たまるか。

(矢玉四郎『はれときどきぶた』岩崎書店より)

 その後、天ぷらを食べすぎた父さんは急にお腹が痛くなってしまいますが、母さんが作った「消しゴムおろし」を食べて無事回復するという展開に……。
 この場面を読んでいると、どういうわけか本当に鉛筆や消しゴムが食べられるように感じてしまうのは私だけでしょうか?(もちろん絶対に真似しないように!)

 この「えんぴつの天ぷら」、最近では思わぬ形で注目されています。最近全国の小学校で、本に出てきた料理を給食で出す「図書給食」という試みが流行っていて、この「えんぴつの天ぷら」がよく出されているようなのです。たとえば東京都目黒区のとある小学校では、えんぴつのような形に切ったさつまいもと、青のりを入れた衣を使って再現したものが出されたとのこと。ほかの学校でも、それぞれに食材や調理法、見た目を工夫したさまざまな天ぷらが作られています。物語に登場する料理が出されるなんて、給食の時間が楽しくなりますね!
 色とりどりの豊かな食材にあふれる、春の季節。ぜひご家庭でも、親子でさまざまな天ぷらにチャレンジして、物語の世界を再現してみてはいかがでしょうか?

スクールFC 平沼 純

 

『はれときどきぶた』
矢玉四郎 作・絵
(岩崎書店)

【レシピ】 えんぴつの天ぷら(筍とアスパラ)

 

天ぷら衣
薄力粉1/2カップ
卵黄1個分
冷水70~80ml
塩ひとつまみ
筍の水煮1/2本
アスパラガス1束

①筍は厚み1.5㎝程度の放射状に切り、内側部分を切り落として鉛筆のように形をつくる。アスパラガスは長さ半分に切り、穂先部分を使う。
②ボウルに天ぷら衣の卵黄と冷水を混ぜ合わせ、薄力粉と塩を加えてざっくりと粉が残る程度に手早く混ぜる(粉っぽさが残る程度でOK)。
③①に薄く薄力粉(分量外)をまぶし、②の衣をつけ、180℃の油でうすいきつね色になるまで揚げる。

*今回は春の旬、筍とアスパラガスを使ってえんぴつに見立てましたが、さつまいもやジャガイモ、いんげんなど、細くてまっすぐなものや、細く切ることができる野菜であれば、同じ天ぷら衣でおいしい天ぷらをつくることができますよ。
*切り落とした部分の筍やアスパラガスの根本部分は、お味噌汁の具や和風パスタの具などに使うのもおすすめです。

【レシピ・写真提供】
料理家 江口 恵子(natural food cooking)

おはなしのキッチンカテゴリの最新記事