3年生Aくん、ただいま絶賛お悩み中。真夏の2泊3日をともに過ごす仲間たちがアイスやジュースをおいしそうに食べているなか、難しい表情を浮かべて固まっています。どうもまわりと同じように楽しんでおこづかいを使えている感じはしない。とうとう腕を組んで目を瞑ってしまいました。その振る舞いを仲間たちはまったく気にしていません。なるべく口を挟むまいと我慢をしてきた私は、耐え切れなくなってAくんに声をかけました。
「大丈夫。心配しないで。考えごとをしているだけだから」
返ってくる声に卑屈な感じはないが、心配は増す。そんな2人の会話に気づいて、まわりの子たちが寄ってきました。
「さっきからこんな調子なんだけれど…たぶん心配ないと思うよ。みんな、わかっているから」
もう少しその理由を具体的に知りたい。私だけが外様の状態にある。私も仲間に入れてほしい…。
「ま、あとでわかると思うから、ほかの班の様子を見てきなよ!はい、いってらっしゃーい!!」
子どもたちに半ば強引にその班から追い出されてしまいました。子どもたちがそう言うならば信じようと、その場を離れました。
次に彼らと遭遇したのは、2時間後。先ほど会った店の前で、でした。少し離れたところから近づき、次第にAくんたちの班だとわかってきます。デジャブかと思うほど同じ光景。ありえない。絶対にありえないが、2時間同じ場所に留まっていたのではないかと一瞬疑ってしまう。段々と焦りが募ります。近づいていくにつれて彼らの表情がわかり、ようやく安堵しました。Aくんが笑いながら仲間たちと会話していて、明らかに事件は解決していました。ここでようやく真相を知ることができました。
「あの時ね、500円の使い道を本気で考えていたんだ。最高に悩んでいるときだったかも」
Aくんは満足そうに話し始めました。サマースクールで数少ない買い物ができるこのコースを楽しみにしていたこと。はじめから家族におみやげを買おうと決めていたこと。おみやげ屋を見たら、どれも高くておこづかいでは買えそうにないと焦ったこと。仲間を見ていて、自分もお菓子やジュースを買ってしまおうかと悩んでいたこと…。先ほどのだんまりはどこへ行ったのか、思いの丈が噴き出します。
「でもね、最後はいいおみやげが買えたからよかった!」
とニヤニヤするAくん。500円と限られたおこづかいでは、正直そんな特別なことはないだろうと一瞬でも思った自分を反省しました。Aくんの発想はもっと柔軟で、自由なものでした。彼が見せてくれたのは、店先に並んでいた鉢入りのオレンジ色のマリーゴールド。
「喜ぶかなと思って、お母さんが好きな色を選んでみた。プレゼントだけど、自分で育てようと思う」
3年生にしてあっぱれ過ぎる。物をあげるだけでなく、自分で育ててきれいな花を改めてプレゼントしたいというAくんの想いに心打たれました。
私が子どもたちに伝えたかった「自分で考えて、葛藤して、決断する」ということを、Aくんが強烈なエピソードとともに教えてくれた気がします。握りしめたおこづかい500円をどう使うかというお題に対し、子どもたちはまず何を買おうか、誰のために使うか考えます。細かな計算をしながら、少しでも自分が満足できる買い物をしようと工夫します。まわりの子を見ていて自分もあれが食べたい、でもおみやげも買いたいと最後まで悩んだ子もいました。その葛藤もまた大切だと感じます。葛藤するということは自分で考えているということです。そこに妥協はありません。答えは自分だけが知っている。最後は自分で気持ちを整理して決断し、納得します。
当然、成長度や個性によって答えはさまざまですが、仲間の姿を見て学ぶことも多いでしょう。Aくんと同じ班だった子たちは、彼の姿を見て次は誰かのためにと感じた子もいるかもしれません。Aくんは時間をかけて自分に付き合ってくれた仲間に感謝を伝えていました。お互いの行動にも学びがあったはずです。
おこづかいにまつわる、ひと夏の物語でした。
花まる学習会アルゴクラブ 中山翔太(2022年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。