【花まるコラム】『至らなさを吐き出す』伊原健太

【花まるコラム】『至らなさを吐き出す』伊原健太

 花まるの高学年授業で大切にしていることの一つに、「わからないことをそのままにしない」があります。自分の至らなさを吐き出した2人のエピソードから考えます。

 一人目は、4年生のNちゃん。9月に実施したオンライン授業は、恥ずかしいから顔を出したくないとのことでお休みしていました。その後、Nちゃんのお母さまとお話ししました。
Nちゃん母「オンライン授業をお休みしていた理由は、わからないことを言いたくないからだと思います。ほかの子に比べ遅れが出てしまいます。大丈夫でしょうか」
私「少しNちゃんに代わっていただくことは可能でしょうか」
1対1で話す時間をとったほうがいいと判断し、その旨をお伝えました。
Nちゃん母「先生が代わってって」
Nちゃん「いや、いややぁ!」
大きな声を出し、パニックになっています。ここで無理やり代わってもらっていいのかとも考えましたが、いま話すことが重要だと思ったため、Nちゃんを待ちました。
Nちゃん「…もしもし」
突然、いつもの冷静なNちゃんに戻りました。
私「大丈夫?なにかお母さんに言いにくいことはあるかな?」
Nちゃん「うん…」
私「じゃあ、Nちゃんに任せるけれど、お母さんから離れて先生と二人で話をする?お母さんのそばでももちろんいいよ」
二人で話したほうが本音を吐き出しやすいと思い、この言葉を投げかけました。
Nちゃん「二人で話をする」
私「電話に出てくれてありがとう。話ができて嬉しいよ。言いづらいことって何かな?勉強でわからないところがあるのかな」
Nちゃん「うん、(勉強が)わからない」
間を置くことなく返事をしました。おそらく、お母さんに話すのは恥ずかしかったり、何か言われるのではないかと怖くなったりして、言いづらかったのでしょう。話をして吹っ切れたのか、Nちゃんは授業を受けにきてくれました。こうなれば遅れを取り戻すことができますし、意欲が高まり、知らないことを知ることのおもしろさを実感することができます。

 続いて、4年生Sくんについてです。4年生になった4月当初は、国語の宿題、特に言葉調べができずにいました。教室に来たときの表情で宿題ができているかどうかがわかります。
私「宿題、どうだった?」
Sくん「算数はできるけれど、言葉調べができない」
と、何週間も苦戦を強いられていました。「もう辞めたい」ともご家庭で言っていたそうです。とにかく寄り添い続け、できることを増やせるように彼のペースに合わせてアプローチしていました。どのように寄り添ったのかというと、「自分のペースでいいからね」「お!今日は6個調べてくることができたね。さすが」というようにSくんなりにがんばったことを認めて、言葉にして伝えました。
 寄り添いだけでいいという判断をしたのは、彼がやらなければいけないとわかっていて、そのプレッシャーに押しつぶされそうになっていたからです。先ほどのようなアプローチを続けた結果、Sくんは宿題をすべてやってこれるようになりました。それが自信となって勉強に対して前向きになり、現在は受験勉強にも励んでいます。

 できない自分を認め、信頼できる大人に相談して吐き出すことは、成長のターニングポイントになると言えます。できないことやわからないことをそのままにしない、と口酸っぱく子どもたちに伝えている理由はそこにあります。
 Nちゃんはこれからが勝負です。思いを吐き出せたからこそ「わからない」と素直に言うようになり、勉強と向き合う姿勢も見えはじめました。Sくんは、できない自分を認め、向き合い続けることができたからこそ、次のステップへと進むことができました。

 吐き出すことができても、逃げたくなったり目を背けたりすることがあるかもしれません。私は絶対に子どもの手を離しません。ご家庭でお子さまとうまくコミュニケーションをとれない、伝えたいことが伝わらない、このようなことがございましたらいつでもご連絡ください。保護者のみなさまと子どもたちの橋渡し役となり、みなさまと一緒にお子さまに向き合い続けます。

花まる学習会 伊原健太(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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