【花まるコラム】『大人の力がなくても』井上笑里

【花まるコラム】『大人の力がなくても』井上笑里

 オンライン教室の低学年クラスでは、6月に「コミュニケーション大会」をおこないました。
 「大会」(花まる学習会の特別授業)といっても、優勝やMVPを決めるわけではありません。子どもたちが自分や自分のまわりを見つめ直し、お互いに新しい発見をすることや、普段はなかなかできない講師との他愛もないおしゃべりを楽しむことを目的としています。子どもたち同士がかかわりあうなかで、何か新しいものが生まれたらおもしろいなと考えながら、当日に臨みました。

 子どもたちが住んでいる都道府県のクイズを出したり、自分がハマっている“イチオシ”をプレゼンしたり、さまざまな角度からコミュニケーションを楽しみましたが、最後におこなった「みんなで伝えて!クイズ、なんのお話?」で、子どもたちのアイディアが 想像以上に光りました。
 このゲームは、お題として提示した昔話を、声は使わずに動きだけでほかのチームに伝えるというもの。発表タイムは10秒以内。「桃太郎」や「さるかに合戦」など、4つのチームに分かれてそれぞれのお題を表現したのですが、そのなかの1チームの発表は次のようなものでした。
“下に向かって何かを叩いているシーンから始まり、楽しげに踊っている場面に変わり、最後はティッシュをあごにつけてよろよろと歩く”
みなさんは何のお話だかわかりましたか?

 事前にルールとして、小道具でタオルを使用したい場合、タオルそのものとしては使わずに、たとえばマントとして使ったり、丸めてボールにしたりするなど、“別のもの”に見立てて使うのはOK、と伝えていました。 そこでそのチームの子どもたちはティッシュを髭に見立ててみたのでしょう。あまりのわかりやすさに、ほかのチームの子どもたちが「わかった!わかった!」と言わんばかりに画面に向かって手をあげていました。

 あとでそのチームを担当していた講師に話を聞いたところ、ティッシュを使うというアイデアはAちゃんから出たものだということがわかりました。それを見たほかの子も、Aちゃんのアイディアを参考に、近くにあった白いものを次々と髭に見立てて使い出したそうなのです。
 子どもたちが自分で考え生み出したアイデアが「いいね!」と広がっていく。正しく、私が目指していたことが実現した瞬間でした。

 対面の教室でも同じようなことがありました。先日の算数大会での1コマ。久しぶりのチーム戦で、子どもたちのやる気はいつも以上に感じていたのですが、ゲームの合間に「ちょこっと相談タイム」をとったところ、1年生のKくんと2年生のKくんが意気投合!お互いに考えた答えが見事に連続で同じだったので、何やらシンパシーを感じたようでした。正解だったものもあれば不正解のものもあったのですが、2人は◯か×かではなく、「誰かと同じ答えだった」ということに価値を見出し、ゲームを最後まで楽しんでいました。
 これも大人が何か声をかけたわけではなく、子どもたち同士の会話から始まったことでした。次のゲームになってもそのチームは、2人に引き込まれるようにお互いの答えを確認し合ったり、「その考えもいいね!」と認め合ったりしながら終始楽しそうに取り組んでいました。

 ついつい大人が声をかけ、導いてやらねばと考えて先回りしてしまいがちですが、本当はそんなものがなくても、むしろないからこそ、子どもたちの真の力が発揮されるのかもしれませんね。この夏、子どもたちの可能性を信じて、ちょっと見守る時間を作ってみてはいかがでしょうか。

花まる学習会 井上笑里(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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