【花まるコラム】『ファーストペンギン』藤枝詩織

【花まるコラム】『ファーストペンギン』藤枝詩織

 【ファーストペンギン】という言葉をご存じでしょうか。ファーストペンギンとは、集団で行動するペンギンの群れから、天敵がいるかもしれない海に、魚を求めて最初に飛び込む1羽のペンギンのこと。つまり、リスクを恐れず初めてのことに挑戦する精神の持ち主のことを指します。私も初めて知ったのですが、素敵な言葉だなぁと感じています。

 さて、花まる学習会の夏の一大イベントといえば、サマースクール。なかでも5年生以上の子どもたちが参加できる「サバイバルキャンプ」というコースでは、生活のなかに当たり前のようにある便利さから離れ、電気もガスも通っていない大自然のなかで、寝食をともにする。食事をするときには自分たちで火をおこすところからスタートします。まさに生き抜くための力を身につけるコースです。

 私が担当する班にTくんという6年生の男の子がいました。Tくんの名札の裏には太い字で「ファーストペンギン」と書かれていました。話を聞いてみると、ファーストペンギンはTくんが幼いことから大事にしている信念だそうです。

 Tくんは同じ班の子どもたちからとても慕われていました。
「Tがいると、頑張ろうって思えるんだ」
「Tが助けてくれたから、俺も人を助けられる人になりたい」
「Tは顔もイケメンだけど、何より心がイケメンすぎる!」
と同じ班の子どもたちから声があがるほどでした。

 4泊5日の間、Tくんとともに過ごして彼の素敵な部分をたくさん知ることができました。そのなかでもきっとこれから先の人生で彼の魅力溢れる部分になると感じたことがあります。それは、Tくんは自分よりも相手を優先すること、仲間が困っていたら自分が1番に動き仲間がやりやすいようにレールを作ろうと尽力することです。自分のことはあと回しで相手のことを最優先に考え行動できるのです。

 サバイバルキャンプでは、食事のすべてが自炊です。畑で収穫した野菜を使い、自分たちで献立を考え、料理を作ります。当然、火おこしも自分たちでやります。そのときに同じ班の男の子が
「俺、火おこしやったことないから怖いな」
と不安そうに話していました。Tくんは、そんな彼に、
「僕と一緒にやろうぜ!きっとできるよ!」
と声をかけていました。

 また、サバイバルキャンプの期間中、夕方から夜にかけて雨が降り、地面がぐちょぐちょになってしまったときがありました。そんなときにもTくんは、
「僕が最初に行ってみんなが歩けるように道を作るね」
と自分が怪我するかもしれないリスクをかえりみず、真っ先に全員が安全に暮らせるように道を整える姿も見られました。

 一緒に過ごすことにも慣れてきた日の夜、Tくんが私に言いました。
「僕ね、できることは何でも挑戦してみたいんだ。でも、挑戦するのって一人じゃつまらないでしょ。だから、自分のことよりも誰を助けたいって思っちゃうんだよね」

 Tくんにとっての大切な軸は、自分1人でやり遂げることではなく、仲間と一緒にやり遂げることでした。それと同時にTくんが発した言葉からは、『仲間のためなら危険を冒してでもなんでもする』という強い意志も伝わってきました。

 ほかの人が困っているときに手を差し伸べることは意外と難しいことです。ましてや、自分にリスクがあればなおさらのこと。しかし、自分よりも相手のことを思いやり相手のために動けることは、人間としてとてもかっこいいことだと思います。

 初めてのことに挑戦する勇気、誰かに手を差し伸べる勇気、チームで協力し試練を乗り越える強さ。自分のなかにぶれない軸を作っていくことが人生を豊かにしていくと子どもたちから学びました。教室でも子どもたちが大切にしていることを一緒に大切にしてまいります。

花まる学習会 藤枝詩織(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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