新入会のYくん。私が近寄ると鬼のような形相で
「嫌い!!あっちいけ!」
と罵声を浴びせてきました。子どもからそんなことを言われたのは初めてだったので、私はとても驚きました。教室の後ろで様子を見ていたお母さまが、他の子が席に座り授業の準備をしているのを見て、不安そうな表情を浮かべていました。他の子ができているのにうちの子はできない。さぞかし心配になられたと思います。彼が授業を楽しめるよう、お母さまに安心していただけるよう頑張ろうと決意しました。
しかし私の意気込みとは裏腹に、泣きじゃくりまったく席に座ろうとしないYくん。そしてとうとうその日はまったく授業に参加しませんでした。
私は頭を抱えました。家に帰ってからもずっと「どうしてYくんは授業に参加しないのだろう?」と考えていました。そしてあることに気がつきました。「Yくんはお母さんが大好きだから甘えたかったのかもしれない!」と。他の教室でも保護者の方に子どもの様子を伝えると「家だと全然やらないんですよー教室だと違いますね!」とお話ししてくださる方が多いです。お母さんと離れる時間を作ることが彼にとって自立への第一歩だと考えました。
そのことをYくんのお母さまに伝えると、次の週はお父さまが彼を教室に連れてきてくださいました。お母さまにとって、とても勇気のいる決断だったと思います。お父さまは、授業が始まると隙を見てYくんを教室に残し帰っていかれました。お父さんがいないことに気がついた彼は大号泣。勢いよく教室の後ろの方へ走っていきました。教室の外に出ていこうとしたので急いで止めました。しかし奇声を発し手足をばたつかせながら、もう大暴れ。そして大きな声で
「お母さんに会いたい!!お母さんにだっこしてほしい!お母さんと手をつなぎたい!」
と叫びました。泣きじゃくる彼の姿を見て、私はさらに気がつきました。Yくんはまだ4歳。お母さんと離れ、知らない大人や子どもたちがいるところに一人で残されるのは不安と怖い気持ちでいっぱいだろうと。
「お母さんはいないけどさ、先生でよければ手をつなごう!」
まずは彼に安心してほしくて、そのような言葉をかけました。すると泣きじゃくりながらYくんがスッと手を出してきたのです!私はその手をギュッと強く握り、一緒に席まで向かいました。その日はずっと彼の手を握っていました。
次の週からYくんは授業中に立ち歩くこともなく、みんなと一緒に授業を受けられるようになりました。怖い場所ではないと認識したのでしょう。お母さんに自分から「行ってきます!」とハイタッチし、バイバイすることもできるようになりました。初対面の時からは想像できないぐらいとびきりの笑顔を見せる瞬間が多くなっていったのです。
それから数か月後、違う教室を担当することになった私は、みんなに最後の挨拶をしました。挨拶の後、Yくんが近寄ってきて「バイバイ!」と言いながら私の手をギュッと握ってきたのです。握った彼の手は、私から「手をつなごう!」と言ったときより、ほんの少し大きくなっていました。
彼との出来事から、「子どもの行動には理由がある」ということを学びました。子どもたちの見えている姿だけではなく、思っていること感じていることに目を向けて、心から安心して通える教室をつくっていきます。いつか、さらに成長したYくんと再開できる日を楽しみに、そして、いま、目の前にいる子どもたちに寄り添いながら、一緒に過ごせる時間を大切にしていきます。
花まる学習会 牛島みずき(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員のみなさまにお渡ししています。