【花まるコラム】『思考の幅を広げる』出井真理

【花まるコラム】『思考の幅を広げる』出井真理

 私には、小さい頃からお菓子の袋などのゴミが出たらそれを小さくたたんで結んでから捨てる習慣があります。私はいつも無意識でやってしまうのですが、友人が不思議そうに私を見てこう言いました。
「それって、何のためにやっているの?」
いままで無意識でやっていたことの理由を聞かれ、一瞬自分でもなぜだろうと考えてしまいました。そして友人は続けてこうも言いました。
「このあと捨ててしまうゴミに対してかける時間がもったいないのでは?」
そう言われたときは一瞬、その通りだと思いました。ではなぜ私はこれをやっているのか。手持ち無沙汰になったときの手遊びのうちの一つかなとも思いましたが、よく考えてみると、思い出したことがありました。

 私は昔からお菓子が大好きで、いまでも毎日のように食べています。ファミリーパックを一人で平らげるのは当たり前で、お菓子タイムが終わると当然ゴミがたくさん出ます。個包装のお菓子を食べるとなおさらゴミは多く、ゴミ箱がすぐにいっぱいになってしまう。それを解決するための一つの手段が、“ゴミをたたんで結んでから捨てる”ことでした。この方法なら、いくらたくさんのお菓子を食べて大量のゴミが出ても、ゴミ箱がすぐにいっぱいになることはなく、ゴミ袋を替える手間が減ります。こうしていつしか、ゴミが出たら小さくしてから捨てることが習慣化し、無意識にやってしまうほどになっていたのでした。

 このことを友人に話すと、
「そうか!言われてみると、確かにそういう考えもあるね」
と納得していました。

 私はこうして誰かと考えを共有することに価値があると感じました。相手の考えを知ることが自分の世界を広げることにつながる。自分の考えを伝えることが相手の世界を広げることにつながる。自分という人間の外には、自分だけでは気づくことのできない世界が無限に広がっている。自分のなかに新たな考えが加わることで、さらに思考の幅を広げることができるのだと感じました。

 花まるでは集団授業をしているので、こういった他者の異なる考えに触れる機会がたくさんあります。
 年長クラスの時間で、異形発見課題に取り組んだときのことでした。身長測定器、メジャー、体重計、定規の絵が並んでいて、“ほかと違うもの”を一つ選ぶ問題です。大人の感覚で言えば「体重計だけ重さを量るもので、ほかは長さを測るものだから、体重計がほかと違う」と答えるでしょう。しかしある子はこう言いました。
「身長を測るもの(身長測定器)だけほかと違うと思う。ほかのは一人ではかるけれど、身長を測るときはその機械に乗っている人と『身長は何センチですよ』って教えてくれる人がいるから。一人で使うものと、二人で使うもの」
この答えを聞いたとき、教室中が「確かに…」という納得感に包まれました。私たち大人も予想しなかった答えだけに、思わず拍手を送ってしまいました。これらの道具を使うときの状況を思い浮かべてこう答えたのだと思います。物事をいろいろな角度から見るおもしろさを教えてもらいました。

 人は、一人でいるとどうしても視野が狭くなってしまうものだと思います。誰かと一緒にいることで、自分には見えていない側面を知ることができる。それが思考の幅を広げるきっかけになる。それぞれ違う考えを持った人同士が同じ空間に集まり、集団で学ぶということには、大きな意味があるのだと思います。

花まる学習会 出井真理(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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