【花まるコラム】『初めてのスキー』小松原学

【花まるコラム】『初めてのスキー』小松原学

 まもなく花まる学習会の野外体験イベント、雪国スクールが始まります。胸を躍らせて待ちわびているお子さまもいるのではないでしょうか。先日の日曜日、私は宿の方との打ち合わせも兼ねて下見に行ってきました。現地はマイナス8度まで気温が下がり、薄らと雪が積もり始めていました。宿のご主人の話だと、前日の土曜日の夜から雪が降り始め、例年よりも早い降雪だそうです。
「クリスマスの頃には、毎年恒例の寒波がやってきて、いまよりもさらに積もるんじゃないかな。ただ、天気ばかりはね…」
と気が気ではない様子のご主人。雪国スクールは、主に新潟県や長野県で行われます。どの宿の方々も、花まるの子どもたちに会えるのを心待ちにしています。そして、都会から来た子どもたちが数日間の滞在で思う存分に楽しめるよう、我々の要望にもいやな顔一つせず協力してくださっています。すべては子どもたちの笑顔を見るため。感謝の気持ちでいっぱいです。

 さて、花まる学習会の野外体験では、さまざまな子どもたちの成長が見られます。これから話すのは、ある年のスキーコースに参加したKくんのことです。1年生のKくんは、スキーをするのが初めて。もちろん、リフトに乗ったことなどありません。彼の目標は、「一人でスキーを滑れるようになって、お母さんに自慢すること」でした。初級コースに参加する子どもたちは、リフトに乗るための試験があります。緩い斜面を八の字で滑り、止まりたいときにブレーキができないといけません。
 Kくんが自分でスキー板を履けるようになる頃、へっぴり腰で滑るKくんを脇目に、まわりの仲間たちは続々と試験に合格し、リフトに乗って山の上から滑り始めていました。焦り出すKくん。試験官の私の目の前で、膝をガクガクと震わせながら何とか止まってみせると、「どうだ!」と言わんばかりのキメ顔でこちらを見るのです。表情は100点満点でした。しかし、それだけでは合格させるわけにはいきません。
「ガクガクしないで止まれたら合格だから、もう一度滑って見せて」
「えーっ!合格じゃないの!?」
どこか腑に落ちない様子のKくん。それ以降、何度やっても上手くいきません。フカフカだった雪も徐々に硬くなり、子どもの力ではブレーキが効きづらくなっていたことも原因でした。それでも、
「絶対滑れるようになる!」
その一心で、滑っては登りを繰り返します。さすがに私も体力面や精神面で疲弊しているのではないかと心配し、
「休んでもいいんだよ」
と声をかけました。すると、
「できるまでやる!」
と気合の入った言葉が返ってきたのです。100人以上いた仲間も4、5人となる頃には、Kくんの滑りも安定してきました。時間にすると1時間ほどでしょうか。その間、Kくんは一度も弱音を吐くことはありませんでした。
「次で決めるんだよ!」
黙って頷くKくん。そして、スタート地点に立ち、合図を待ちます。程なくして、下からOKサインが出ると、ゆっくりと滑り出しました。しっかりとスピードをコントロール。最後は私の目の前でキュッと雪を鳴らし、見事に止まって見せました。
「合格!」
その言葉を待ち望んでいたKくん。空高く腕を伸ばし、
「やったー!」
と全身で喜びを表現しました。いままでの努力が実を結んだ瞬間です。
 ついにリフトに乗って山の上から滑る時がやって来ました。強張った表情で一人乗りのリフトに乗ったKくん。よほど怖かったのか、両手でガッチリとリフトを抱きしめながら上がって行きました。やっとの思いで頂上に着き、Kくんは斜面を前にして立ち尽くしていました。あまりの斜度のきつさに怖がっているのではと思い、
「どうしたの?」
と声をかけると、私の予想もしなかった言葉が返って来ました。
「こんなにきれいな景色初めて。お母さんにも見せてあげたいな」
こんなときでも、お母さんのことを考えていたのです。健気ですよね。子どもたちは、親元を離れた場所でさまざまな経験を通して成長しています。

花まる学習会 小松原学(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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