【花まるコラム】『きっかけは何だって、いつだっていい』澤井康史

【花まるコラム】『きっかけは何だって、いつだっていい』澤井康史

 私は5人きょうだいの2番目、長男として生まれ、上に姉が1人います。姉は、小さい頃から生き物調査に夢中になったり、分厚い小説を年間何冊も読んだりしていました。その姿はまるで研究者のようでした。

 姉が中学3年生になり、進学先を決めるときが来ました。親の意向により本人の意思とは違う高校に進むことになりました。当時、姉は大学で勉強をしたいと言っていました。しかしそれは叶わず、商業高校に進みます。姉は高校3年間で簿記の資格勉強に励みました。 定期テストではトップ30に入り、簿記で表彰されるなど、学校内でも優秀な成績を収めました。

 高校を卒業すると、簿記の資格を活かせる経理事務の仕事に就きました。しかし、いざ社会に出てみると資格を活かせる仕事をしていたつもりが、全然活かされませんでした。それでもその仕事を3年続けました。姉が社会人2年目の終わりの頃、投げ出したくなったかのような感情で私にこう言いました。
「自分の人生、こんなんじゃなかった」
いままでも辛いことはあったと思いますが、私が見てきたなかでは姉にとって一番辛かった時期だと思います。それまで自分で考えた道ではなく親や学校の先生が決めたレールを歩んでいた姉は、そこで立ち止まるのではなく、自分で自分の人生を本気で考え、行動に移します。

 姉は昔から絵を描くのが好きで、中学・高校では美術部に所属していました。絵の好きっぷりは本物で、勉強の合間でもそれをノートの片隅にたくさんのアニメや漫画の絵を描いていたほどです。姉は、広告デザインの仕事を始めました。その仕事にアニメや漫画の要素はないため少し不思議に思って理由を聞いてみると、
「広告デザインはいま業界的に上がり調子だから、自分の好きなことと将来ニーズがあることで決めた」
とのこと。紆余曲折はありましたが、本当に自分のやりたいことに気づいて実現しました。

 私が大学に進学すると同時に、私は姉と離れました。しばらくして私は姉のもとを訪ねると、なんと姉はサービス業の事務スタッフになっていたのです。不思議に思って理由を聞くと、
「実は大学を目指してるんだ」
と返答が。大学進学のためのお金を貯める目的でその仕事を選んだのです。姉が昔から好きだった学ぶ気持ち。私は、まったく異なる業界に身を置いてでもやりたいと思ったことに挑戦しようとしている姉の行動力に脱帽しました。

 私が担当している高学年プラスコースでは、事前に動画を観て予習をし、教室で確認テストを受けるのですが、そこに通う負けず嫌いな4年生Sくんも同じようなことがありました。Sくんは以前お母さんから算数を教えてもらってもわからないことがいやで機嫌を損ねたことがありました。
 初めての確認テストでSくんは思うような点数が取れなくて泣いてしまいました。隣の席の子が満点を取っていたことも追い打ちとなったのでしょう。しかし、Sくんはそこで終わりません。授業が終わって家に帰ると、その日のうちに解き直しをし、次回の確認テストに向けてお母さんと勉強したのです。Sくんはお母さんと勉強することを拒んでいたのでとても意外でした。1週間後の確認テストはレベルが高く、まわりがなかなか思うような点数を取れないなか、Sくんだけは点数が上がりました。Sくんは、確認テストでの悔しい気持ちを行動に変え、結果に結びつけたのです。

 姉は社会人になって挫折を経験し「自分を変えなければ」と強く思い、本当にやりたかったことを見つけ、彼女自身の人生を歩んでいます。Sくんも確認テストで良い点数がとれず、いままで拒んでいたことにも挑戦しました。いつ、どのタイミングでその子が変わるかはわかりませんが、この2人が変わるきっかけをつかんだのは、新たな環境に身を置いたときでした。彼らのようにあえて未知の世界に身を置いてみるのも良いのかもしれませんね。

花まる学習会 澤井康史(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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