先日“Most Likely to Succeed” という教育ドキュメンタリー映画を観ました。アメリカのカリフォルニア州にある High Tech High という学校での子どもたちの成長を追った作品です。この作品を観ながらふと考えたことがあります。それは「教育に正解はあるのだろうか」ということです。
映画を観終わったあとに、ある日の教室での出来事を思い出しました。
年中の特別授業(テーマに沿った「もの」を使って遊び抜く、月に一度行う授業)の日。11月は、落ち葉や木の実を使って60分間遊び抜きます。たくさんの落ち葉や小枝、どんぐりなどの木の実を拾ってきた子どもたち。匂いや触り心地を存分に楽しんだあと、拾ってきたものを画用紙に貼って作品をつくる時間を取りました。
Dくんは、ぱんぱんになった袋をひっくり返して、拾ってきた落ち葉を豪快に広げます。画用紙からはみ出して、テーブルにも床にも土が落ちるほど。Dくんは目を輝かせながら、セロハンテープでたくさんの葉を画用紙に貼り付けていました。「できた!」と言ったDくんの画用紙は、白い色が見えなくなるほどに色とりどりの落ち葉で埋め尽くされていました。
一方、Yちゃんは丁寧に1枚ずつ画用紙の上にさまざまな色の落ち葉を並べ、貼っていきます。じっくりと時間をかけて完成したYちゃんの作品。画用紙の上には、色鮮やかな「虹」がかかっていました。
子どもたちにはそれぞれ異なった感性があります。2人の作品を比べたり、大人の枠組みのなかで「こうあるべき」と縛り付けてしまったりするのは、もったいないことです。子どもたちが持っている可能性は、大人の想像を遥かに超えることがあります。「もっとこうした方がいいよ!」と評価するのではなく、一人ひとりの「こうしたい!」を形にできたことを認め、感じたことをそのまま言葉にして伝えてあげたいと思うのです。その積み重ねが子どもたちのソウゾウ(創造・想像)力を豊かにし、感性の器を広げていくことにつながるのでは、と。
私は2人に対して、感じたことをありのままに伝えることにしました。
「たくさんの葉っぱで敷き詰めたね」
「葉っぱのグラデーションがきれいだね」
そこから先は、子どもたちが頭のなかで思い描いている世界がどんどん広がっていきました。
「ここは秘密基地でね!この下にはブランコがあるんだよ!」
「この虹の上を歩いてみたいんだ!ママと一緒に歩くの!」
冒頭に紹介した映画の作中、こんな言葉が出てきました。
「教師の『こうなってほしい』という勝手な完成図は捨てるべき」
教育や子育てに「こうしなければいけない」という唯一解はないのだろうと思います。だからこそ悩む場面も多くありますが、その悩む瞬間こそ楽しめるようになれたらいいのでは、と思うのです。子どもたちを見ていて、私自身「こんな考え方もあるんだな!」ということを教えてもらうことがたくさんあります。正解がないからこそ試行錯誤することを楽しみ、子どもたちと一緒に成長していける先生でいることがいまの目標です。
花まる学習会 秦野達也(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。