みなさんは、花まるの授業に登場する木製教具「アイキューブ」「キューブキューブ」がどこで作られているかご存知でしょうか?これらの教具は日本製で、静岡県は浜松にある『中川木工製作所』という工場で作られています。以前、サマースクールの「ものづくりの国」で子どもたちとキューブキューブを自作するにあたり、私はその工程責任者として、工場見学に行ったことがあります。私自身、家具職人として家具製作を生業にしていたこともあり、製作現場を深く知ることで、いくつかのアイデアをコースに反映することができました。これは、その工場見学をしたときの話です。
中川木工製作所は、今年で創業47年を迎える歴史ある会社です。3代目の社長である中川秀喜さんは、眼鏡をかけた恰幅のいい、いかにも優しそうな雰囲気の方でした。キューブができるまでの工程を、実際に工作機械を使って見せていただいたあと、工程で気を遣う点、材料や道具のアドバイスなど、様々なお話を伺いました。しかし、その中で私が最も印象に残っているのは、実はキューブのことではありません。それは、「はみ出し者」の話でした。
中川さんの会社では、毎年近所の中学校の職業体験を受け入れているのですが、「最近の中学生と接して、どんなことを感じますか?」という質問をしたときです。「よく働くね。でも、はみ出さない」という答えが返ってきました。最近の中学生は、ある作業を時間で打ち切ろうとすると「あと5分やらせてください」と申し出てきたり、自分の手が空くと、作業量が多くて困っている仲間を助けたりして、それはよく働くのだそうです。ただ、そんな「働き者」の中学生も、具体的なひとつの作業になると、お手本で見せられたやり方を忠実に守り、その方法からはみ出さないそうです。例えば、料理のときにネギを切るとして、1本をそのまま輪切りにするよりも、まず真ん中を切って2本にしてから揃えて切れば、手間が半分になります。木工の世界でも同じような状況に遭遇することが山ほどあるのですが、「こうしたらもっと手間が省ける」という発想をして、「言われたことからのはみ出し」をする子がほぼいない、ということでした。いい意味で「なまけるための知恵」といえるのでしょうが、それができる子は、決まって幼い頃(あるいは今も)悪ガキと言われて育ったような子だということです。
決して、「働き者」を責めようとしているわけではありません。現代では、教える側の手法があらかじめ考え抜かれてマニュアル化しているため、より良い方法を生み出す土壌が失われているように思うからです。求められるパフォーマンスを言われたとおりに発揮すれば、認められる。反面、工夫をしようとして失敗し、求められるパフォーマンスが出せないと責められ、評価が下がる。そうした環境では、挑戦や工夫があまり意味を持ちません。今「はみ出し者」がいないのは、大人がそうした環境を進んで選び取り、はみ出す行動を淘汰してきた結果でしょう。
しかし、「生きる力」に焦点を合わせてみると、今後はより「はみ出す力」が必要とされるように思います。だからこそ、花まるの年中・年長授業の「思考実験」では「はみ出し」を受容しています。たとえば、子どもは紙飛行機を作ると、ただ飛ばすだけでなく、機体をデコレーションしたり、テープでつなげて合体メカにしたりします。大人が意図した遊び方でなくても、危険な行動以外は止めずに、子どもたちがやりたいようにやらせる。テキストが定めた目標はありますが、必ずしもそれを達成する必要はありません。自由にはみ出す(という自覚もなく遊びを広げる)ことで、挑戦や工夫が意味を持つ環境を守りたいと思います。
花まる学習会 橋本一馬
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。