私が小学4年生のころ。私たちはヒミツの遊び場で遊んでいました。いわゆる秘密基地です。マンションと公園の間にあった木の生い茂る、細い植え込みのなかに密かに建てられた秘密基地は私たちにとって特別な場所でした。
公園の近くから、座れそうな大きな石や丸太、発泡スチロールに段ボールとさまざまなものを持ち寄って、少しずつ居心地のいいものにしていきました。これまで行っていたカードゲームなどの遊び、それぞれが持ち寄ったお菓子、それらすべてが秘密基地では特別なものに感じられました。大人になったいま思えば、仲間同士で秘密を共有し、それをともにやり遂げる楽しさから生まれる特別感があったのではないかと思います。
ただ、作る場所がよくありませんでした。マンションと公園の間の植え込みに作ったのですが、そこはマンションの敷地だったようで、学校の先生にこっぴどく叱られてしまいました。「自分たちで秘密基地を解体し、元通りにしなさい」とのお達しを受けたのです。たぶん私たちも、よくない場所に作っていた自覚はあったのだと思います。そんなスリルも楽しみながら、まわりのみんなもいずれ来るこのときを予感していたのでしょう。私たちはしんみりすることなく、むしろ楽しみながら秘密基地の解体を進めていきました。約2か月間過ごした秘密基地は3時間ほどであっけなく、ほとんど元通りになってしまいました。
最初こそ悲しさはありましたが、みんなすぐに立ち直りました。秘密基地は秘密であるからこそ「秘密基地」であり、ばれてしまえばただの基地です。しかしながら、そこで行ったヒミツの遊びは紛れもなく特別なものでした。
それからも、学校の校舎裏、土手のはずれなど、学年が上がっても秘密基地は作り続けられました。最初の頃のようにものを置くことはなくなりました。しかし、単純にほかの人が来なそうな私たちだけが知っているヒミツの遊び場は場所を変え、形を変え、私たちの生活にあり続けていました。自分の家にもタンスと壁の隙間という秘密基地がありました。子どもたちが「秘密基地」だと言えば、もうそこは「秘密基地」なのです。
誰かと一緒にワクワクする冒険をしたり、友達と語り合ったりする秘密基地。子どもたちは、そんな心躍るような場所、仲間内だけが知る安心できる秘密の場所を求めているのだと思います。
子どもたちにとって、秘密基地はいわばファンタジーの世界なのかもしれません。大人の介入がない秘密基地の中で、現実とは別の空間で冒険する時間。そこには大人の生活への憧れ、自分たちの世界を自分たちの手で作り上げたいという願望があるのだと思います。大人になりたいという願いを持ちながらも、実際の生活では実現することのできない葛藤を秘密基地にぶつけているのではないでしょうか。大人から離れて主体的に自立して過ごす機会が、子どもたちにとって心の成長に大きな影響を与えることでしょう。
時にはお子さまが服にさまざまなものをくっつけて帰ってくるかもしれません。もしかしたら大冒険のあとかもしれませんね。保護者のみなさまにはそんな子どもたちの冒険をそっと見守り、今後の成長を楽しみにしていただきたいです。花まるの無人島も、そんな大冒険の懸け橋になるのではないかと、いまから私もワクワクしています。
花まる学習会 佐藤達也(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。