【花まるコラム】『「当たり前」を取り払う』山田悠人

【花まるコラム】『「当たり前」を取り払う』山田悠人

 「ある男がキャンプをしようと基地を作りました。基地が完成し、男は散歩をすることにしました。南へ1km、東へ1km歩いた場所で男はクマに遭遇し、慌てて北へ1km逃げました。すると、男は、もとのキャンプ基地の場所にたどり着きました。さて、クマは何色だったでしょう?」これは、私が高校生のときに友人から教えてもらい、悔しながら答えを聞いて「なるほど…」と唸った問題です。

 実は、なぞなぞや引っかけではなく、「南へ1km、東へ1km、北へ1km行くと、もとの場所に戻る」ような場所が、地球上に存在します。
 それは、「北極点」です。(正確には、「北磁極」という、磁石上の真北です。)北極点から問題のように動くと、球面上で見たときに三角形(それぞれの角が90度の三角形!)になり、もとの場所に戻ってくるのです。
 つまり、男が基地を作った場所は北極点
  →その地域にいるクマはホッキョクグマ
  →クマの色は「白」が答えでした。

 私がこの問題を出されたときには、普段の感覚から抜け出せず、答えを導き出すことができませんでした。なんとなく持ってしまう「当たり前」の感覚(=平面の地図上で考える)を一度取り払って考えてみると、別の角度からの視点(=地球サイズまで引いて見る)が生まれて、新たな発見やおもしろさに出合える、ということに気づかされた問題です。


 2コマ漫画の1コマ目を見て、オチとなる2コマ目を考える「たこマン」。子どもたちにも人気の教材です。その日の1コマ目は、コックさんが皿を運んでいる途中で、1枚を床に落としてしまった、という絵でした。積極的に手を挙げる子どもたちからは、「割れたけれど、魔法でくっつけた」「そのまま持って行ってお客さんに怒られた」など、周囲がクスッと笑ってしまうオチが次々と発表されます。
 そんななか、終盤になって手を挙げたEちゃん。ほかの子の発表を聞きながら考えていたようで、「思いついた!」という表情が私の目に飛び込んできたため、指名しました。
 Eちゃんの答えは、「落としたのは恐竜の卵で、そこから恐竜の赤ちゃんが産まれた」でした。
 クスッと笑わせるのとは少し違った角度の答えで、周囲の子どもたちからは「ああ~」「なるほど!」といった声が上がりました。絵の中央で割れているものは確かに白くて丸い形をしていて、言われてみると恐竜の卵にも見えます。子どもたちのリアクションを見ると、むしろ恐竜の卵にしか見えなくなっていたようでした。


 アルゴクラブの授業でのこと。2~4年生は、授業中にプリント教材「詰めアルゴ」を解きます。数字が書かれた黒と白のカードが小さい順に並んでおり、その並び順から、裏向きのカードを論理的に詰めて推理する問題です。
 机を見て回っていると、すでに問題を解き終えた2年生のKくんが、自分の書いた答えの数字を手で隠していました。聞くと、「違うところからもできるか実験している」とのこと。詰めアルゴは、答えは1つになりますが、解法は何通りもあります。Kくんは、一度解いた順番とは違う方法でも解けるか、試していたのでした。
 しばらくして私がもう一度Kくんのところへ行くと、彼に呼び止められました。「違う順番でもできた?」と聞くと、Kくんは「全部の場所が最初に決められる!」という実験結果を私に報告しました。実際にその日の問題は、どの場所を最初に考えても解ける問題でした。
 答えを導き出すことはもちろん大切なことですが、私はそれ以上に、たくさん考えて答えまでの道のりを進むということを大切にしています。Kくんは、答えが出せればOKという当たり前を取り払って、すべての解法のパターンを考えてみるというチャレンジをやり遂げたのでした。


 近頃の世界を見ると、「当たり前」からはみ出さないようにする気風が以前より強まったような気がします。「当たり前」を軽やかに飛び越えていける子どもたち。彼ら彼女らのしなやかな思考を、めいっぱいに伸ばし続けていく所存です。

花まる学習会  山田悠人(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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